チギリ~spring~

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* 金の筆記で206と掲げられた扉を確認して手を掛けると、 「大丈夫。悪いやつなんていないから」 優しくなだめる声に、「う、うん」と返す緊張気味な返事を、ちらりと振り返る。 不安げに隣を見上げるおっきなおめめを、ふにゃっふにゃの眼差しで見下ろす親友から、やれやれと目をそらして扉を引いた。 ……こんなデレ顔、今まで見たことねーぞ。 開けた瞬間に駄々漏れしてきた、ぎゃん、と喚くようなマイク越しの声に顔をしかめる。 さっきの女子達と交代したナオキが、正面で気持ち良さそうにスポットライトに照らされていた。 「お待たせー、悟流くん到着ー」 薄暗い小部屋に鳴り響く卒業ソングの大音量に、声はかき消されるものの、唯一こちら側を向いていたナオキが、オレに手を挙げた。 次いで、後ろに続く悟流へと気づく。 『おっ。待ってたぜー、さと……る……』 せっかくの歌を中断し、伴奏に乗せながらスピーカーを通した歓迎の声を上げかけたところで、……ナオキは、ひし、と固まった。
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