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「あ、ああ、誰か助けて!」
うちのクラスのサッカー部員からの言伝で、校舎裏に三年のサッカー部の部長に呼び出された彼は、逃げ出したい気分だった。
昭和の時代なら先輩の呼び出しというものは生意気な目立つ後輩を懲らしめる決闘などの男気ある荒事であったろう、が、平成の世は違った。いや、決闘の方が何倍もマシだった。
「いや、本気で俺、お前のことかわいいなと思ってるんだ。どうだ、付き合わないか」
同性にかわいいと言われて、正直、ゲゲゲと寒気がした。彼は別にホモを差別する気はないが、自身が、その当事者になる気はなかった。女性のおっぱいが好きだし、ブラが透けて見える女子の夏服にドキドキする健全な男子のつもりだ。
「すみません、先輩。俺、そういう趣味ないですから」
彼は、そう吐き捨てると、その場をそそくさと逃げ出した。
後日、その言伝を頼まれたクラスメイトから、どうなったといろいろ聞かれたがただ断ったと簡潔に説明して、それで、その一件は終わるかと思った。
だが、その先輩がストーカーのように休み時間になると、彼の教室の近くに現れたり、サッカー部の朝練のない日の登校時に校門近くで見かけたり、同じ学校なので偶然もあり得るが、あまりにも、見かける頻度が多く、彼は自身が所属する文芸部の部長に相談した。文芸部の部長は女子だが、サッカー部の部長と同じ三年生だったし、彼には他に頼れそうな先輩が思いつかなかったのだ。また先生に相談するような事案とも思えなかったのだ。
「ふむ、つまり、そいつあきらめきれずにストーキング中というわけね」
「ただ見かけるだけなので、特に実害はないんですけど・・・」
「けど、精神的につらいんでしょ」
「は、はい」
「なら、こういう手は、どう? 偽の彼女を用意してあんたにはちゃんと彼女がいて男になんか興味ないと見せつけて、あきらめさせるの」
「え、偽の彼女?」
「ちょうど、うちの部にはあんたと背丈の釣り合う一年生が」
部長が部室の漫画を読んでいた私をくいくいと手招きする。部室はそれほど広くないので二人の会話は何となく聞こえていた。私は、仕方なく部長の手招きに反応する。
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