アダムの喉骨

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「セスと一緒なら、きっと楽しい旅になるさ」 「ぼくはアズナと旅をする」  ぼくはようやく決心する。  独りじゃ楽しくないとわかったからだ。  そうして二人の旅がはじまった。 「セスの旅の目的地はどこなんだい?」  アズナに訊かれても答えられなかった。  旅は目的地があるから歩いて行けるので、それがない旅はただの放浪なんだね。  ぼくはあてどのない彷徨い人だ。 「荒れ野を放浪していたんだよ」 「それなら今から考えればいいさ」 「旅の目的地を考えるの?」 「ううん。生きる目的を考えるんだよ」 「生きる目的……?」 「生きるということは、きっと旅と同じかもしれないでしょう」  ぼくは考えあぐねた。  この世でいちばん難しいことは、いちばん簡単な答えかもしれない。  答えを見つけようとしないから、旅の目的が見いだせなかったんだね。 「わたしはね、大きな街に行って踊り子になるの。傷負い人を癒やせるような踊りと歌を舞い歌うのが夢よ」  水晶のごとき月の下で、せせらぐように踊り謡うアズナ。  それは荒れ野のオアシスのように心を潤した。  ぼくの胸は熱くなる。 「とてもきれいだ」 「本当に? 嬉しい」  アズナがはにかんで眼を伏せた。  きみの瞼の下で花が咲いている。  その無垢のやさしさは、救いだ。 「嘘はつかない。ぼくはアズナを護る」  ぼくの生きる目的が決まった。
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