11人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
アダムの喉骨
死はとても悲しい。
それは永遠の別れだから。
花が散るのと同じだ。
地上に咲く花に同じものはない。
花が美しいのは咲いて散るからなのに、人は咲き続けようと醜くもがく。
人はどうしようもなく不完全だからだ。
永遠の生命など、この地上にありはしないのに──
荒れ野の出逢いだった。
ぼくが身も砕けるような孤独に苛まれているときに、
「わたしの名はアズナ。ちいさなきみ、独りで寂しくない?」
湧泉のさざめきのような声でアズナがそこに立っていた。
荒れ野に咲く花のような女の人だった。
アズナは荒れ野を彷徨っているときに、孤独なぼくを見つけたんだ。
「……どうしようもなく孤独なんだ」
「こんな荒野で孤独だと、干からびて心が枯れちゃうぞ」
そのとおりだと思った。
独りで泣いているよりも、人の言葉の方が潤してくれる。
「わたしと一緒に旅をする?」
ぼくは心で二の足を踏んだ。
アズナを巻きこみたくなかったからだ。
いざよいながら、そっとアズナを見る。
「ちいさなきみの名は?」
「ぼくの名はセスだよ」
「セスと一緒に旅をしたら楽しいだろうな」
ぼくはひどく戸惑った。
“楽しい”なんて言葉は久しぶりに聞いた。
「アズナがよければ、ぼくは一緒に行くよ」
最初のコメントを投稿しよう!