アダムの喉骨

1/6
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

アダムの喉骨

 死はとても悲しい。  それは永遠の別れだから。  花が散るのと同じだ。  地上に咲く花に同じものはない。  花が美しいのは咲いて散るからなのに、人は咲き続けようと醜くもがく。  人はどうしようもなく不完全だからだ。  永遠の生命など、この地上にありはしないのに──  荒れ野の出逢いだった。  ぼくが身も砕けるような孤独に苛まれているときに、 「わたしの名はアズナ。ちいさなきみ、独りで寂しくない?」  湧泉のさざめきのような声でアズナがそこに立っていた。  荒れ野に咲く花のような女の人だった。  アズナは荒れ野を彷徨っているときに、孤独なぼくを見つけたんだ。 「……どうしようもなく孤独なんだ」 「こんな荒野で孤独だと、干からびて心が枯れちゃうぞ」  そのとおりだと思った。  独りで泣いているよりも、人の言葉の方が潤してくれる。 「わたしと一緒に旅をする?」  ぼくは心で二の足を踏んだ。  アズナを巻きこみたくなかったからだ。  いざよいながら、そっとアズナを見る。 「ちいさなきみの名は?」 「ぼくの名はセスだよ」 「セスと一緒に旅をしたら楽しいだろうな」  ぼくはひどく戸惑った。  “楽しい”なんて言葉は久しぶりに聞いた。 「アズナがよければ、ぼくは一緒に行くよ」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!