絶望のその先

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あれから十有余年後……。 宅配関係の会社に就職して、夜遅くまで配達に勤しむ日々。 僕の家に一通の手紙が届いていた。 「アンタんとこに珍しく来たよ」 仕事から帰ったら、そう言って姉から手渡された手紙。 実家暮らしを続ける僕は、自室に入りベッドに腰掛けて受け取った手紙に目を向ける。 シンプルな白封筒に、よく見る鳥のイラストの切手。 宛名は、バランスのとれたどこか女性的な雰囲気のある優しい綺麗な字で書かれ、間違いなく僕宛てだった。 それでも差出人は書いてないし、僕は不審に感じながら封を切った。 中には、これもまたシンプルな、飾り気のない一枚の便箋。 『久しぶり。お元気ですか? 約束を覚えてる?』 そんな言葉から始まった文章を見て、僕はある人物を思い描いた。 〝「女みたいな字だな」〟 そう言ってからかった相手。 一緒に逆上がりの練習をしたり、自転車で少し遠出をして怒られたり、中学に入ってからは教科書の貸し借りしたり、一緒に部活の自主トレもした…… およそ十年前まで、親友だと思っていた人物。 「何を今さら……」 そんな独り言を溢しながら続きに目を通す。 『まずは、ごめん。 引っ越す事、伝えられなかったのはもちろん後悔したけど今では良かったと思ってる。 約束の事だけど、小学校の卒業アルバムに書いてあるから見て。 ……見てくれた?』 「見なくても覚えてるし」 『約束、これもごめんなさい。 約束は守れそうにありません。 ……ちゃんと伝えたくて。 今さらごめんなさい。 ご多幸に恵まれますよう祈っています』 「……これだけ ……そっか」 手紙を読み終えると、身体中の力が抜けた。 ベッドに横たわり、便箋を読み返す。 裏返しても、光にかざしても――何度見直しても書いてあるのはそれだけだった。
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