絶望のその先

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しかし、その誕生日は過ぎた。 ――約束の日、その日は静かに過ぎ去ってしまった。 これまで探し続けていた彼女も、個人情報に敏感な世の中では簡単には見つからず、彼女からの来訪も無いと明らかになってしまった。 十年以上、思い続けた人。 そしてなにより――初恋の人。 そんな彼女との未来は、 一縷(いちる)の望みさえ失った ――僕は、そう思った。 ところが、そんな彼女と僕が再会したのは、さらに二年が経った穏やかな風の吹く春の日だった。 仕事で訪れた宅配先の一軒家。 小包みを抱えて向かった玄関で、迎えてくれたのが彼女だなんて思いもしなかった。 「……え?」 最初に声を発したのは彼女だった。 イメージしていたよりも細身で、胸まで伸びた髪は風を受けてゆらゆらと揺れる。 間違いなく昔の面影が残る彼女の顔は、驚きと困惑を物語り、二人の間には緊張が走った。 「え、あ、えっと……サインか印鑑お願いします」 僕は、仕事に徹することにした。 懸命に動揺を隠し、普段通りに仕事をこなすことに意識を向ける。 「……持ってきますね」 家の奥へと入っていった彼女を見送って、 僕はその隙に、長い長いため息を吐いた。 「……おめでとう」 僕は足先を見つめ、心のこもっていない言葉を小さく呟いた。 ……僕自身が諦めるために。 ……彼女の幸せを壊さないために。 「お待たせしました」 「あ、いえ。ここにお願いします」 「あ、はい」 戻った彼女もまた、僕の意図を読み取ったのか他人行儀に接してくれた。 だけど僕はこの後、違和感に気が付いてしまった。 そしてそれを、聞かずには居られなかった。
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