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「……ユキコ?」
それが、僕が聞かずには居られなかった事だった。
家の奥から女性の声が聞こえ、呼ばれた相手は僕の知らない人だったのがきっかけになった。
小包みの受取人は彼女ではないし、知らない家族がいてもおかしくはない。
一人娘の彼女は、婿を迎えている可能性もあるが、ここが嫁ぎ先の可能性だってある。
しかし、すぐに本人に直接聞く勇気は無くて、婚姻の事実だけでも確認しようと、僕は彼女の左手薬指に目を向けた。
だがそこに光るものは何も無く、僕の心には希望の光が射し込んだ。
「え、えっと……」
「ユキコ~? どこなの?」
「っ!
……すぐ行くから待ってて!」
家の奥から再び聞こえた声に、焦りながらも彼女は意を決したようにその声に返答をした。
それが僕を動かした。
何故なら彼女の名前はユキコではないはずだから。
「……ユキコ?」
「……叔母さんの名前。
二年くらい前、お母さんが認知症だと診断されたの。
それで……」
「まさか……」
彼女の言葉を聞いたとき、僕の脳はこれまでにないほどに、瞬く間にパズルを解いた。
気遣いをする彼女が考えそうな事。
そして、彼女のこれまでの苦労とこれからの苦悩。
それを考慮したうえで、僕に出来る彼女を支える一番の方法。
導き出されるのは、僕が待ち望み、彼女も望んでいたであろうこと。
その結果、脳は僕に一つの指令を下す。
そうして僕は、初めて彼女を抱きしめた。
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