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心の底から憎しみが滲んだ。
全てなくなってしまえばいいとすら思った。
それは10歳の少年にはあまりにも惨憺たるものであっただろう。
けれど、悲劇はそれだけにとどまらなかった。
事はその晩である。
その日は数年に一度、月が紫色に染まる煌月の夜であった。
煌月の夜とは、その月が出れば必ずどこかで竜が目覚めるという伝承からくるものである。
とはいえ、このご時世。
初代皇帝の時代に行われた竜討伐の勅令のおかげで、無類の強さを誇った竜。
それも今や、山中に隠れ住んでいるようなものばかりである。
――ばかりであるはずなのだが、その日の夜は具合が違った。
少年が寝ていた頃。
急に大きな衝撃音が響いたのだ。
場所は馬小屋。
そこで寝ていた少年が驚いて辺りを見回すと、なんとその辺り一面、逃げ場もないような火の河であった。
そして陣風の如く強烈に響く、奇怪な音。
それが常時、空から響いている。
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