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「ねぇ」
「なんだ」
私は心の動揺を隠すように、唐突に話し始めた。
「なんで皆に自己紹介させてくれなかったの?」
名前を言おうとした途端、斎がそれを遮った。
斎には、あるまじき行為だ。
幼馴染の私に対しては何気に失礼なことを言ったりしても、斎は基本的に礼儀正しい。
自分の仲間に向かって名乗ろうとしている私を、遮る理由はない、はず。
「私は斎からいつも聞いてるから、皆のこと知ってるけどさ。皆は私のこと、わからないでしょ」
「幼馴染だということはわかったんだからいい」
「なにそれ!」
いつもと違い、理屈の通らないことを言う斎に、私は首を捻った。
「紹介したくないくらい、恥ずかしいとか?」
だとしたら、かなり凹むんですが。
「違う」
「じゃ、なんでよ」
「…」
黙りこくる斎。こうすれば、私が追究を止めるということは経験済みなのだ。
言いたくないことは、言わない。私もそれを尊重して聞かない。それがいつもの私達だ。
でも、今日はそうはいかない。
楽しそうに仲間のことを語る斎。
そんな斎を見て、私はいつも羨ましかった。そして、皆に会ってみたいと思った。
そして、この間やっと、離れたところからではあったけれど、皆の姿を見ることができた。
そして──今日、思いがけず皆に直接会えた。
だから、ちゃんと自己紹介したかったのだ。
仲間に入ることはできなくても、斎を通しての友達になれたら嬉しいなと思って。
それなのに。
とことん追究する気で、私は斎をグイと見上げた。
すると斎は、少し困ったような顔をする。
「いやに食い下がるな」
「今日は許してあげない」
「…そんなに自己紹介したかったのか?」
「そうだよ。斎が大切にしてる仲間にずっと会ってみたいと思ってて、せっかく会えたのに」
そう言って、少し俯く。
すると、斎はクシャクシャと私の髪を撫でた。
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