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しかし、それがしは考えるべきだった。
お師さまの言葉は、なぜ途中で途切れたのか。
妄想にふけっていたそれがしには聞こえなんだが、このとき、門が壊れるぐらいに叩いて、人を呼ぶ音がしていたそうだ。
そして、少し遅れて、とんでもなく大きな声が……。
「誰ぞおらぬか!
拙者じゃ!綾津又蛇真舌呂
じゃ!」
このまま、お隣の国にまで聞こえてきそうな大音量。
こ、これは一体……。
「む、綾津か。
また面倒な事になるやもしれぬな。
すまぬ、湯屋はまた次の機会にいたそう」
え、え~!
そ、それがしの気持ちは、
それがしの気持ちより、突然現れた"アヤツ"の声のが大事なのでござりますか!
あ、あぁ。
それがし、今まで生きてきたなかで、最も心に傷を負いました。
そんな事を考えているうちに、まだお師さまが許しを言っていないにも関わらず、アヤツは、勝手に門を潜り抜け、お師さまとそれがしとの"朝ご飯"という団欒が繰り広げられている部屋に強引に入り込んできた。
あぁ、もう絶望しか見えませぬ。
「おぉ、やはりおったな!
早速で悪いが、すぐに力を借りたい。
すぐに発てそうか?」
「全く、お前ときたら、いつも急にきて、急に面倒事に巻きこんでくれるな。どのみち、拒否権はないのだろう?
すぐに支度をする。
と、いうわけだ、しばらく屋敷を空ける。
留守を頼むぞ」
そう言って、お味噌汁を書き込んでお師さまは奥へと下がってしまい、図々しいアヤツがこの場に残る。
なんだか、色々話し掛けられた気がするも、その一言すら耳に入らない。
コイツは、それがしから人生最大の喜びを奪い取ったにっくき仇。
いつか、いつか、目にものを見せてくれるのだ!
そう、胸に刻んだ日だった。
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