2人の少女。

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 摩耶長こと嵐山に何か言われる度に、濡れた子犬のようにぶるぶると震え上がる、元は海防艦の乗組員であったらしい海軍下士官の幽霊。 そして、そんな彼の傍らから離れようとしない、あの時直子が幽霊を見えるようにしてしまった少女の幽霊。 ランエボ車内での所謂ちょいワル爺さんのような様子とは別人のような、今やめったに見られなくなってしまった幾度も死線を越え生き残った帝国海軍士官の威厳そして厳然たる態度を崩さない嵐山。 気が付けば件の下士官と少女のみならず、祠の周りに集まっていた霊たちまでが、まるで新三のように直立不動の姿勢となり成り行きを見守っている。 それを知ってか知らずか、嵐山は更に言葉を続けた。 「せや自分。 直子ちゃんにやったように、ワイにも幽霊が見えるようにしてみ? 何も見えんトコに向かって偉そうに説教すんのも、そろそろ飽きてもうたさかいになぁ…」 初めの官姓名申告時とは全く異なり、地鳴りのように低い押し殺した声で嵐山。 勿論その鋭い視線は、海軍下士官と少女がいると思われる位置を睨んだままである。 一方、少女は何度も首を横に振ったのみならず、益々震え上がって下士官の後ろに隠れてしまうのであった。
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