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社用車を運転しながら、心は私よりもウキウキしている。
「あー楽しみ!! みんな驚くだろうなあ。
期待の新人絵本作家が、私とおんなじ顔だなんて。
うーワクワクする!」
「心はいいわよ。私はもう緊張しちゃって、覚えた挨拶が飛んでいきそう」
「そんな大したパーティじゃないって。居酒屋に毛の生えたような会場だし、大丈夫大丈夫」
「他人事だと思って」
「他人事だもん」
へらっと笑いながら、心は意外な場所でハンドルを切った。
「え、心、本屋さんに用事?」
「馬鹿、パーティに先立って彼方に、自分の本が店頭に並んでるのを見せてあげるんじゃないの。
双子愛に感謝せよ!」
「いや、いい! 恥ずかしいから!」
「何で? 私だったら大威張りで目立つ所に並べ直して来るけどな」
「私は心みたいに心臓に毛は生えてないの!」
ぎゃいぎゃい言いながら心に引きずられて車を降りた私は、
店のドアの前で、思い切り心にぶつかった。
私を引っ張っていた心が、急に立ち止まったから。
「……心?」
「……誠林堂書店さん、なかなかやるね」
恐る恐る顔を上げると、心がこれ以上ないくらいニヤニヤしている。
「いや~、大量に仕入れといてよ、って宣伝はしといたんだけどさ、
ここまでやってくれるとはね」
入口のドアには、貼り巡らされた手書きの大きな色付きのビラ。
『当店の今月のおすすめ』
『地元から、期待の絵本作家誕生!!』
『ほのぼのした絵柄と、暖かな語り』
『子供と大人が一緒に楽しめる、新感覚の絵本』
「ぎゃー!」
思わず顔を覆い、店の前で座り込んだ私を置き去りに、心はスタスタと店内に入って行く。
私の動悸が治まらずにいるうちに、心は戻って来た。
新品の絵本を抱えて。
「買って来ちゃった。彼方、サインして」
「え」
「子供の頃から思ってたの。彼方はきっといつか有名になる、って。
そしたら絶対、私が一番にサインもらうんだ、って。
ほら、『ファン第一号の心さん江』って、日付までちゃんと書いてよ?」
「……ふふ。……しょうがないなあ」
『シリーズおやこのえほん』
『題名:もようのちがう ふたごの貝がら』
『ぶん・え ココロカナタ』
私の大切な片割れ ココロへ。
いつまでもあなたの片割れでいたい カナタより。
平成28年5月19日
Fin.
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