左右非対称の貝殻

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「まあとりあえずおめでとう。 で、いいの? 片付け全然進んでないけど」 「あっ!! しまった、久しぶりだから話したいこと一杯で……。 ま、いっか。ホント、私の片付け下手なんて、今さらだもんね」 また、えへへと笑う心に、ちょっと意地悪したくなった。 「相変わらずお父さんお母さんに心配かけてるよね、心は」 「あれ、彼方がそれを言う? 私よりもよっぽど心配かけてるくせに」 「え?」 「小さい頃から私、彼方が羨ましかった。 慎重で冷静で強くて、一人で何でもできてさ。 なのにお父さんもお母さんも、いつも彼方のことばっかり心配するんだもん」 「何言ってんの。心が泣くたびに、二人ともあんたにかかりっきりだったじゃない」 「私がどんなに『つらい』って泣いても、 二人とも『心なら大丈夫。思ったとおりやってごらん』って笑ってたよ。 いつも野放しだったの、私は。 なのに彼方には、いつも心配性丸出しで。 彼方は家に籠って友達も作ろうとしない、何にも話してくれない、大丈夫だろうかって。 本とか絵に熱中してるあんたを、いつも心配そうに見てた」 「そんなこと……」 「かなり嫉妬してたよ、私。今も嫉妬してる。一緒に住んでるのは私なのに、って」 あっさりと。 私が、口に出せないまま20年近く引きずり続けた言葉を、 あっさりと口にして、心は、あはは、と笑った。 ――私は今まで、父と母と、そして心の、何を見て来たのだろう。 本当に強いのは、心のほうだ。 逃げ出して、目を背けて、未だに卑屈なままの私は、強くも賢くもない。 心はしっかりと、自分の足で立っている。 自分の心と向き合い、ぶつかって乗り越えているのだ。 長い間のわだかまりが、すっ、と解けていくのを感じた。 たったこれだけのことで。 私がこだわっていたのは、何てちっぽけなプライドだったのだろう。 私はどこかで、心を見下していた。 だからこそ、嫉妬している自分を、なおさら醜いと思っていたのだ。 素直になりたい。 素直な強さを持ちたい。 心のように。 心のことを、自分とは異なる一人の人間なのだと、 この時私は生まれて初めて、本心からそう思った。 「私、あっちのご両親と同居するの。 産休終わったら仕事にも復帰したいし、あっさり始めから子育ても頼っちゃおうかと思ってさ。 ――ねえ彼方、帰って来ない? 仕事、こっちでもやれるんならさ」 「……うん。考えてみる」
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