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その日の夕食は、
大皿に盛られた四人分の貝尽くしのご馳走。
もう、心と同じもようの器に同じ分量だけ盛られた、あの頃の食事とは違う。
変わらないようでも、確実に時は流れているのだ。
母がウキウキと言う。
「久しぶりの一家四人の晩餐ね。作り甲斐があったわ」
心が口を尖らせる。
「彼方がいると全然態度が違うんだから。
じきに居なくなる私を惜しんでくれても良くない?」
「惜しむ余裕はないわね。心配でたまらないわよ、心は。
料理もしたことないのに、全然教えてくれとも言わないし」
「悪阻が治まったら、よろしくお願いします、お母さま」
「嘘おっしゃい!
とっくに治まってるでしょ、毎日あれだけ食べといて」
「あ、バレてたか」
相変わらずのやり取りに、思わず笑ってしまった。
父が目を細める。
「心と彼方は、だんだんそっくりになってきたなあ」
「あら、あなたもそう思います?」
「「え? どこが!?」」
「あら、息もぴったり」
微笑む父と母。
心と私は顔を見合わせて、苦笑いをこぼした。
「お父さんもお母さんも、私達を似てない双子に育てたかったんじゃないの?」
そう尋ねた私に、
父は楽しそうに答えた。
「全然違うからこそ、同じところが際立って見えるんだよ」
「えー? 『そっくりだからこそ、違うところがよく解る』とかなんとか、小さい頃言われた気がするんだけど」
「ははは。どんなに違ってても、どんなに似てても、心と彼方は私達の大切な娘だ。
この家はお前達の家だから、出て行くとしても、いつでもまたおいで。
右は心、左は彼方。あの部屋は、ずっとお前達の部屋だよ」
そう言って父は、アサリのワイン蒸しに箸を伸ばした。
『右は心、左は彼方』
ああ、そうだったんだ。
父の腕にはもう飛び込まなくなった頃、私達はあの部屋を与えられた。
思春期で次第に離れていく娘を、それでも守るために、
父はあの部屋に託したのだ。
自分の腕の代わりを。
変わっていくものと。
変わらないものと。
同じ所にただ意固地にしがみついていた私だけが、どちらも見ようとはしていなかった。
変わっても、変わらなくても、ここは私の居場所。
どんな私でも、受け入れてくれる、ただひとつの場所。
私はいつも、――醜い嫉妬に苛まれていた時でさえ、
気づかないくらい穏やかに、幸せだったはずなのだ。
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