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強い、とハインリッヒは思った。
「速い、しかも正確だ」
「ヴェルザリオは武を讃える民族さ。柔弱なイシュタリアとは、違う!」
コートをひるがえしジャレスは躍りかかる。その動きは山猫のようにしなやかでで洗練されている。ハインリッヒよりも速い。
二本の得物を巧みに操り、反撃の暇を与えまいと斬りかかってくる。この細い腕のどこに力があるのか。一撃一撃が重く、しかも正確だ。だがハインリッヒは落ち着いて、矢継ぎ早に振り下ろされる剣を受け止めた。
「ちっ……イシュタリアの名将は伊達じゃないか」
苛ついたようにジャレスは顔を歪ませる。既に玉座は燃え落ちていた。
「君とフィオーリアが、ヴェルザリオに物資を横流ししていたんだね」
消耗戦のあと、殲滅戦があった。そのとき、物資がヴェルザリオにあることに気付いた。何者かが横流しをしているに違いないと思い、調べていたが、確たる証拠を得るには時間がかかり、一歩遅かった。
「ああ、ヴェルザリオは戦うさ! 誇りにかけてね!」
一際甲高い金属音が鳴り響く。ジャレスの二本の刃とハインリッヒの重剣の刃が交わる。交叉する。どちらからともなく距離を置き、息を整えた。
「うおぉおおおおおおッ!」
「はぁッ!」
すれ違い様に互いに斬り結ぶ。渾身のジャレスの一撃は骨に響くほど重かった。だが――
「剣が……くそッ!」
ハインリッヒの重剣の衝撃に耐えられず、ジャレスの剣が砕けた。殺人鬼を逃がす手はない。ワンステップでハインリッヒはジャレスの懐にもぐり、万が一にも逃がさないよう致命傷を狙うべく肘で腹を殴った。――内臓の、破裂を。
「かはっ……」
咳き込みながら、ジャレスが膝をつく。ハインリッヒはすぐさま、重剣の先をジャレスの首もとにあてがう。いまにも振り下ろそうとしたとき――
「ハインリッヒさま、レイ……やめて!」
誰よりも愛してやまない人の声が聞こえた。振り下ろす手が止まり、ハインリッヒは黒薔薇へと振り返る。なぜ、来た? マティウスと一緒に避難させたのに。
「レイ……教えて、あなたのこと……本当のこと!」
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