第六章 最後の戦い

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「フランツにジャレス。これは私が彼女と愛を紡ぎながら、少しばかり知恵を貸して書かせたもの。本当にただの遊びだったというのに、それで罪を裁かなければならないほど、我が帝国の法は狭量だっただろうか」  ――『忘れないでおくれ、君を誰よりも愛する者が、常に君と共にあることを』  ハインリッヒの言葉は本当だった。星がきらめくがごとく颯爽とあらわれ、死罪を免れることは叶わないと思われたこの身を救いにきてくれた。もし、もしハインリッヒに仇なす者がいれば、理由をこじつけて彼を罪に着せ、情け容赦なく法で裁こうとするかもしれないのに、その危険を顧みず、ただ自分を守るためにここへ来てくれた。 「私の証言では不足なのだろうか。この帝国を統べるべく前皇帝に皇太子として任じられた私が、国家転覆を謀るだろうか」  誰一人として返す言葉はなかった。それもそのはずだ。帝国の史上稀なる英雄として、兵を率い自ら戦線に赴き指揮を執り、剣を手に戦った男――しかも皇太子である男がわざわざ国家転覆を謀る必要があるだろうか。答えは考えるだけでも愚かだ。 「いいえ……」  フランツの言葉に、ハインリッヒは鷹揚として頷く。だがすぐに表情を厳しいものに変えると、逆ねじを食わせにかかった。 「では我々は無実だ。……法廷の場を借りてハインリッヒ・L・イシュタリアと賢龍ウルグドゥラの名の下に、厳粛なる審問会を開くことを宣言する」  泡を喰って言葉が出なかったのか、それまで黙っていたフィオーリアがきんきんと甲高い声で叫びだす。「審問会」という言葉に肝を潰したのだ。 「こ、皇太子ですって……嘘、嘘だわッ! 第二皇子は身分が低いはずよ、皇位継承権があるはずないじゃない! 臣下に降りて隠れ住んでいるはずじゃ……っ」  フィオーリアが勅命書を見ても、未だに信じられないといった形相で食い下がる。 「フィオーリア様。言葉を慎まれるよう……陛下はルーデル公爵家でお育ちになりましたが、その皇位継承権は前皇帝の承認のもと有効のままでした」  フランツは慇懃な調子でハインリッヒの皇位の正統性を説明する。だがそれでも自分が聞いていた話と違うと、フィオーリアが満面朱をそそいで騒ぎ立てる。
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