第六章 最後の戦い

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「遅いよ、どうせ死ぬんだ……僕は戦士として、レイのもとへ行く」  膝をついているのも苦しくて、ジャレスは仰向けに倒れた。 「妹……? どうしてその名を名乗っていたの。嘘をついたの」  嘘まみれの世界で、綺麗事は沢山だ。でも、視界がぼやけていく。心配そうに覗き込んでくる黒薔薇の顔が、ヴェルザリオ一の美少女と名高かった妹の顔と重なる。  そのせいなんだろう。口が勝手に動いたのは。 「妹、レイと一緒に売られて、ヴェルナーのじじいに買われた……あの男は双子の妹のレイを虐待していて、僕はそれを止められなかった――」  悲しい記憶。自分へ情欲を向けるヴェルナー男爵の、下卑た笑み。いつも兄妹で手を取り合って慰め合っていた。 「ヴェルナーのじじいは、成り上がり貴族……義理の娘を行儀見習いで皇妃に預けられると聞いて、馬鹿みたいに喜んでたさ」  でも――と、ジャレスは呟いた。頬を温かいものが流れていく。誰の涙だろうか。黒薔薇の、"レイ"の? それとも―― 「レイを階段から突き飛ばして、あの男が殺したんだよ。僕のレイを……物みたいに。でも行儀見習いの冠が欲しいから、似ている僕に女装させて。馬鹿みたいだろ」  くつくつと笑った。でも本当は笑っていなかった。そんな力も残っていないからかもしれない。 「憎いなぁ……全部、壊したかったんだ」  黒薔薇の必死の声が、遠いところで聞こえていた。 「どうして、なんでニーナやマーサを殺したの? どうしてあなたが傷つくことばかりするの?」  ――「お兄さま」……レイの声は黒薔薇の声に似ているんだな、と思った。死の手に招かれながら、聞くほど懐かしくなった。そこだけ、彼女のことが好きになった。  だからだろうか。つられるように応えてしまうのは。黙っていればいいのに、ああ、でも……。 「ニーナに、着替えているところを見られて、口封じしただけだよ。貧乏くじだよね」  マーサは黒薔薇に精神的なダメージを与えられると思って、殺した。そうすれば、頼り場のない黒薔薇は自分に心を許すだろうから。辛子を飲んだのも、「可哀想で献身的なレイ」を作り出すための演出――。 「糞ヤロウの親戚とかいうシーリンガーも、催眠と汚名で潰してやろうと思ったけど、なんで、みんな……邪魔するかな」
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