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「遅いよ、どうせ死ぬんだ……僕は戦士として、レイのもとへ行く」
膝をついているのも苦しくて、ジャレスは仰向けに倒れた。
「妹……? どうしてその名を名乗っていたの。嘘をついたの」
嘘まみれの世界で、綺麗事は沢山だ。でも、視界がぼやけていく。心配そうに覗き込んでくる黒薔薇の顔が、ヴェルザリオ一の美少女と名高かった妹の顔と重なる。
そのせいなんだろう。口が勝手に動いたのは。
「妹、レイと一緒に売られて、ヴェルナーのじじいに買われた……あの男は双子の妹のレイを虐待していて、僕はそれを止められなかった――」
悲しい記憶。自分へ情欲を向けるヴェルナー男爵の、下卑た笑み。いつも兄妹で手を取り合って慰め合っていた。
「ヴェルナーのじじいは、成り上がり貴族……義理の娘を行儀見習いで皇妃に預けられると聞いて、馬鹿みたいに喜んでたさ」
でも――と、ジャレスは呟いた。頬を温かいものが流れていく。誰の涙だろうか。黒薔薇の、"レイ"の? それとも――
「レイを階段から突き飛ばして、あの男が殺したんだよ。僕のレイを……物みたいに。でも行儀見習いの冠が欲しいから、似ている僕に女装させて。馬鹿みたいだろ」
くつくつと笑った。でも本当は笑っていなかった。そんな力も残っていないからかもしれない。
「憎いなぁ……全部、壊したかったんだ」
黒薔薇の必死の声が、遠いところで聞こえていた。
「どうして、なんでニーナやマーサを殺したの? どうしてあなたが傷つくことばかりするの?」
――「お兄さま」……レイの声は黒薔薇の声に似ているんだな、と思った。死の手に招かれながら、聞くほど懐かしくなった。そこだけ、彼女のことが好きになった。
だからだろうか。つられるように応えてしまうのは。黙っていればいいのに、ああ、でも……。
「ニーナに、着替えているところを見られて、口封じしただけだよ。貧乏くじだよね」
マーサは黒薔薇に精神的なダメージを与えられると思って、殺した。そうすれば、頼り場のない黒薔薇は自分に心を許すだろうから。辛子を飲んだのも、「可哀想で献身的なレイ」を作り出すための演出――。
「糞ヤロウの親戚とかいうシーリンガーも、催眠と汚名で潰してやろうと思ったけど、なんで、みんな……邪魔するかな」
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