第六章 最後の戦い

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「ジャレス、逝ったのね……」  黒薔薇は抱きしめていたジャレスの体を、そっと横たえた。  妹のためだったのか。全てを憎んで、そして壊して。彼は本懐を遂げられたのだろうか。でも、と黒薔薇は思う。 「最期、微笑んでいた……」  黒薔薇のことを妹と間違えていたジャレス。撫でられた手は、殺人者のものとは思えないほど優しかった。 「黒薔薇、行かなければ」  ハインリッヒの冷静な声が、胸に染み渡った。できるなら、彼の胸で泣きたかった。でも、いまは―― 「ですが、逃げる道はありません」  廊下が燃え落ちている。ふたりのいる謁見所も天井が軋んできていた。黒薔薇はジャレスをもう一度抱きしめ、血に汚れた顔を拭いてやった。 「ある。玉座の後ろのステンドグラスを割れば、なんとか外に出られる」  ハインリッヒがジャレスの亡骸を抱えて、燃えさかる玉座に近寄った。甲冑を脱ぎ、炎にくべると、鉄でできた甲冑が炎の間に即席の道を作ってくれる。さあ、と手を伸ばされ、黒薔薇はドレスの裾を持ち上げ、ステンドグラスの近くまで近寄った。ハインリッヒが重剣で窓をたたき割り、ジャレスを抱えてまずは自分が登る。そこから黒薔薇の手を引っ張って外へと連れ出した。  ジャレスの安らかな死に顔は、どこか微笑んでいるように見えた。
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