第三章 密やかな逢瀬

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「くすくす……田舎者は泥にでもまみれているのがお似合いよ。黒薔薇皇妃? 聞いているわ、庶民のような家で、畑仕事をして食いつないでいたのでしょう……ほほ!」  第二皇妃のガーネットが黒薔薇を嘲笑すべく、母リアンとの優しい血の通った思い出まで否定する。マーサのことなど少しも気にかけてはくれない。頭に血が上って、目の前が明滅する。  ――マーサのことを、誰も気にかけてくれない! まるで消耗品のように言うなんて、なんて心の冷たい人ばかりなの?   水面に落ちた滴が波紋を広げていくように、黒薔薇を嘲弄するささやきがホールに広がっていく。違う、黒薔薇は見せ物の猿じゃない! 違う、馬鹿で愚かな有象無象! 負け犬は自分じゃない、目の前にいるお前たちだ。黒薔薇は怒りに沸きたち、口に任せてものを話す。 「黙りなさい、愚にも付かない者達が! 益体(やくたい)もないことを話している暇があれば、皇帝陛下に尻尾でも振っていなさい。出席する価値も無い晩餐会で、互いに砂をかけあうと良いわ!」  ホールがしん、と静かになる。ものをわきまえず話したことに気付かぬまま、黒薔薇はレイを連れて退席しようとする。――そのときだった。  硝子の砕け散る音がして、我に帰った黒薔薇は後ろを振り仰ぐ。
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