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「レイ!?」
グラスを取り落としたのはレイだった。彼女は顔を真っ赤にさせて、激しく咳き込んでいる。苦しそうに歪んだ顔を、生理的な涙が濡らしていく。慌てて飲み物を吐かせようと、レイの背中を叩くと、右手がふっと軽くなった。
「マティウス……!」
驚く黒薔薇と顔をぐしゃぐしゃにして咳き込むレイをよそに、マティウスは黒薔薇の手から飲み物の入ったグラスを奪う。
「皇妃! あなたのグラスにも何か入っているかもしれない!」
彼が言うが早く、ところどころで悲鳴があがり、我先にとグラスをテーブルに戻す客が後を絶たずに、ホールは混乱の渦に巻き込まれる。そうだ、レイは悪意を持つ誰かに、なにか異物を飲まされたのだ!
「レイ、大丈夫!? ねえ、レイ……っ!」
ようやく容態が落ち着いてきたレイの背を撫でれば、彼女は涙声で話し出した。
「だ、だいじょうぶ……です……でもこれ、辛子が入って……! うっううッ」
――「断頭台の招き人」からの手紙……まだ意味があったの?
騒然とした雰囲気のまま、収拾が付かなくなった晩餐会は、黒薔薇に赤っ恥をかかせてお開きとなった。
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