第三章 密やかな逢瀬

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「"毒"薔薇め、お前が飲んでいれば、百年の恋も冷める恥をかかせてやれたのに、おしいこと!」  フィオーリアはジャレスにマッサージをさせながら、今晩の晩餐会に思いを馳せる。皇帝も黒薔薇を大層気に入ってはいるようだが、まさか本気で皇后の座を与えるつもりだとは計算外もいいところである。だが―― 「『断頭台の招き人』――ふふ……毒薔薇の首が落ちるのをこの目に……しゃれこうべとして飾ってやりたいものよ」  フィオーリアは残忍に笑い、ジャレスは心得顔で皇妃の豊満な体をマッサージし続けた。皇帝からの夜の誘いは――まだ、こない。 「ふふ……次の手は――」  ――可哀想にレイ。怖いだろうに、あんなに元気にふるまって……。  休みをやると言ったのに、レイは負けてはいられないと、打倒フィオーリア、ガーネットをかかげて、夜明け前から働いている。  晩餐会後、改めて警備兵が黒薔薇の宮、ブランケンハイム宮で捜査を始めた。  そこで問題になったのが、あの日から忽然と姿を消したニーナだ。ニーナは黒薔薇の侍女として信が厚く、明るい性格で他の使用人からも慕われていた。  その線で調べ直してもらっても、ニーナがどこに行ったのか分からなかった。  よって当然ながら、(黒薔薇がどれだけ否と唱えようと)ニーナ・マウアーはマーサ・アルフォンス殺害容疑で指名手配されることになった。 「絶対にニーナが犯人なわけないじゃない!」  賢い子だった。さも自分が犯人に見えるやり方で行動するほど馬鹿ではない。一向に進展しない捜査線をぎりぎりと待ちながら、今日も黒薔薇は自分の武器である学識を高めるべく勉学に励む。 「っと、そこ計算が違うぜ」 「あ、本当。ありがとう――」  ……誰だ。私室に無断で入り、上から見下ろして、間違いを指摘する男は――そんな男、ひとりしか知らない。
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