55人が本棚に入れています
本棚に追加
レイはブランケンハイム宮の主室の庭で、掃き掃除をしていた。辛子の粉を飲んだあとは、ひどいガラガラ声しか出なかったが、いまではすっかり回復して、黒薔薇が快適に生活できるよう、侍女としてできる限りを尽くしている。
ニーナがいなくなったことは、すなわちニーナ自身が犯人である証拠と世間では言われる。黒薔薇は意見書を正式に皇帝に提出し、ニーナが犯人ではない可能性を訴え続けている。だがレイはとにかく穴を埋めるために、精一杯働くしかない。
すべすべの肌にピンクブロンドの髪、頬には赤みが差していて、黒薔薇には及ばずとも希なる美少女である。ヴェルナー男爵家の娘として一四歳で行儀見習い続行中であり、時間があるときには主人の黒薔薇に淑女の教えを請う。
「よいしょ……ふー、これも焼却炉に持ってかないと」
掃き掃除が終わったら、主人である黒薔薇の書類整理に着手する。必要な物と、そうでない物は別の棚に収められているから、レイは紐でいらなくなった書類を束ねると、いつもどおり焼却炉で焼くために立ち上がった。
「あれ・・・・・・?」
レイはそのなかのひとつに、視線が行った。
質のいい紙が一枚混じっている。もしかしたら、皇帝からの手紙かもしれない。
――だとしたら、捨てるなんて不敬だろうな・・・・・・。
自分の預かり分ではないと知りながら、なんとなく気になってしまう。
レイは回りを気にしながら、そっと紙に手を伸ばす。
なんてことはない。ほんの少し見るだけだから・・・・・・見つからないように、そっと。
最初のコメントを投稿しよう!