第三章 密やかな逢瀬

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 その話に小さな笑い声が広がる。ハインリッヒの忠告がなければ、堪忍袋の緒が切れて、あからさまな自己弁護に走ってしまいそうだ――ふつふつと沸き上がる怒りを抑えつつ、黒薔薇は馬鹿なことを言う周りにあわせて、笑い声をたてつつ聞いた。 「おもしろぉい、それでジャレスさんは他になんか言ってなかった?」 「えぇ、そうねぇ、毒薔薇の首をしゃれこうべにして飾りたいとか……んー、断頭台の招き人がどうとか言ってたけど、意味不明ねぇ」  「断頭台の招き人」! そのことを知っているなんて、やはりフィオーリアが犯人とみてよさそうだ。あとはどうすれば一矢を報いてやれるだろうか、そこが問題だ。 「昼食の時間よ! あら、あなたドコ行くのよ、続き話しましょ!」  気が合う使用人だと思われたらしく、続きを話そうと腕を引っ掴まれて食堂に連れて行かれそうになる。イコリタの汁の効果は昼には消えてしまう、変装がばれる前に逃げなくては! 「お……お腹痛くなってきちゃった! 後で行くから先行っててね!」  危なかった。なんとか振り切り、厩舎人と合流し、黒薔薇は己の宮、ブランケンハイム宮に戻る。変色していた瞳は元に戻り海よりも青く輝いている。 「皇妃さま、よかった! 心配で胃が痛くなりました……」  レイが涙目になりながら、ときおり零れる滴を拭っている。それをあやしながら、黒薔薇は確信を持って自分の成果を言い募る。 「レイ、やっぱりフィオーリアが犯人よ! あなたを酷い目にあわせて平然としているだなんて、血も涙もない女だわ。どうすれば一矢報えるかしら」
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