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「どういうことだよ、おい?」
これから飲みに行くのに、馬車の中は殺伐とした雰囲気で塗り替えられている。意識して小さくした声で、マティウスはハインリッヒに尋ねる。
「ルーデル家も一応、第二皇子の後ろ盾だからね。君の家みたいに睨まれて大変みたいだよ」
自分の家でもあるというのに、このハインリッヒのむかつくほど落ち着いた雰囲気はなんだ。まあ彼の目には将軍として――なにより国を担う者としての、お家騒動を越えた広い視野を持って語っているのだろう。
「皇帝の容態が悪化している……こうなれば、第二皇子も動かなければならない、さあ着いた――政治の話は終わり、飲もうか」
なんだかはぐらかされた気分がするが、これ以上追及したところで第二皇子が能動的になって、都合良く問題を片付けてくれるはずもない。
「マスター、いつものヤツ、ロックで!」
マティウスは当たり前のように、最高級のアルコール度の高い酒を頼んだ。
「おやおや、随分きつい酒を飲むね……負けてはいられないかな?」
最近は浮かないことばかりだ。たまには頭を痛ませることを忘れて、べろんべろんに酔っぱらって憂さ晴らしをしても良いだろう。帰りの手筈は整えているから、酔いつぶれても大丈夫だ。
「あー、惚れた腫れたも結構! セルシアご苦労! けどハインリッヒさんよぉ飲もうぜ!」
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