第四章 なにもかも過ぎてゆく

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 レイが初々しい笑みを、不器用に浮かべてみせる。この可愛らしさなら、例え成り上がりの貴族だとしても、男達は放ってはおかないだろう。  黒薔薇はレイが立派な淑女になるために、丁寧に作法を教え、数学や物理学までも教え込んでいる。レイは頭が良くて覚えが早い。  男ばかりが世界を動かすのはナンセンスだ。女性はもっと活躍すべきで、こうやって貴族界が勉強の大切さを知れば、市井にも行き届くというものだ。 「それで、ドレスはどれにいたしましょう」 「ホルターネックのパーティードレス、斜めにレースの入ったやつで色はラベンダー。それを持ってきてほしいの。紫の薔薇飾りをアクセントに添えて、ビーズは照明に映えるようにいつもより多め。ワイヤーつきのパニエにトレーンは長めになるように、指示を出すのよ!」  デコルテはとうぜん広めにとって大人っぽさを演出しながら、造花をあしらって年相応の可愛らしさを忘れない。トレーンは躍っても邪魔にならないほどに、しかしエレガントに見えるように若干長めに調節させる。  きっとフィオーリアやガーネットはエンパイアラインドレス(帝国式)でめかし込んでくるだろう。招待される貴族たちもマーメイドラインなど艶めかしいタイプのドレスを選んでくるに違いない。ならば自分はプリンセスラインで差別化をはかる。  上半身はセクシーにホルターネック。一転して裾はパニエでふんわりと愛らしく。少女特有のアンバランスなあどけない色気を大胆に利用して、驚嘆の眼差しを一身に集めてやるつもりだ。 「皇妃さま、このドレスを型にすればいいんですよね。アクセサリはどうしましょう?」  皇帝から黒薔薇にと贈られた凝ったデザインのドレスは、それだけでも舞踏会に出られるほど完成されていて、少々手直しするだけで、他の追随を許さないほど黒薔薇に映えることだろう。 「セットで渡されたものでいいわ。控えめによ、あまり飾りすぎたら子供っぽいと笑われる」  イシュタリアの絢爛豪華な形式美も意識しながら、ごてごてに飾り付けずにドレスを着こなしてみせようと黒薔薇は息巻く。
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