第四章 なにもかも過ぎてゆく

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「悪かったって、つい魔が差して……な? お詫びにダンスの練習相手になってやるよ」  この男はどう転んでもこうなのだ。きっと自分をからかってもそんな記憶はすぐに、どうでもいい過去という名の墓場に葬り去られるのだ。やぶれかぶれになって黒薔薇は同意した。たしかにマティウス・シーリンガーなら身長も高く、貴族出身とだけあって、女性をエスコートすることには慣れていそうだ。 「やつのこと教えてやるから怒るなよ。ハインリッヒは名家の次男として出席だそうだ」  ――別にマティウスと躍ったところで、ハインリッヒさまを裏切っているわけじゃないんだから……。  ハインリッヒの名を出されると、自分は弱くなってしまう。彼以外と躍るなど、少々後ろめたい気がするが―― 「おっと、でもその高いヒールで俺の足踏むなよ」  最初のステップで、黒薔薇は思いっきりマティウスの足を踏んでやった。
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