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屋台ラーメン
最近、近所に屋台のラーメン屋が出没しているらしい。
らしいというのは、俺は実際に見たことがないからだ。というか、呼びこみのアナウンス的な物も一度として聞いたことがない。
出現時刻は夜の七時から十時くらいの間。屋台が来ていることを連呼するようなことはなく、控えめなメロディが出現の合図となる。
味は結構いいらしく、しかも値段もお得だとかで、現れると、夕食がまだなら足を運ぶという人も多いらしい。
でも本当に、俺は、その屋台に遭遇したことが一度もないんだ。
七時過ぎならたいてい家にいるし、控えめでも、近所で何か曲が流れれば聞こえてくる。
だけど俺は、屋台が流すという曲を聞いたことなど一度もない。ちなみに、俺が家にいる時は家族もみんな同様で、翌日以降に屋台の話をご近所さんにされても、『来てたっけ?』となるという。
よほど、タイミングという相性が悪いんだなぁと、屋台の話を聞くたびに思っていた。でも、違っていたのかもしれない。
…その日は、残業でいつもより帰りが遅くなった。といってもまだ九時前で、夕食を家で採ろうか、それともどこかで食べていこうかと、考えながら歩いている最中だった。
帰り道にある信用金庫の駐車場に、一台の軽トラが停まっているのが見えた。
夜間はいつも駐車場に貼れいないよう、出入り口に鎖が張られているのに、今日はこの時間てもまだ車がある。誰か行員さんが残っているのだろうかと、駐車場脇を通りすぎかけた時、軽トラの荷台の向こうに、人が並んでいることに気がついた。
頭が四人分見える。その全員が軽トラにもたれかかり、ぼんやりと立ち尽くしていた。
何をしているという訳でもなく、みんな、ぼーっと車にもたれて立っている。その異様な光景から目が離せず、見つめていると、やがて一人が席を離れた。
また一人、立ち去る者がいれば、新たに来る者もいる。でも全員が全員、何をするでもなく軽トラにもたれ、暫くぼんやりした後帰るだけだ。
あれはいったい何なのだろう。そう思った見続けていたら知った顔が現れた。
時々話をするご近所さんだ。
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