名前の無い犬

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僕は白い犬だ。名前はまだ無い。 まだ幼かった頃、ニンゲンに捨てられた。 他の兄弟も一緒に捨てられた。 捨てられている僕たちを見て、ニンゲンたちは見えないフリをするか、見てもすぐに目を背けた。 小さいニンゲンが僕らにパンをくれる事もあったけど、結局、来なくなった。 僕はダンボールの箱から出て、食べ物を探した。何も見つからずにダンボールに帰ろうとすると、他の兄弟が大きなニンゲンに檻に入れられていた。兄弟は動く硬い箱の塊に乗せられ連れて行かれた。 僕は独りになった。 独りになってから、色々大変だった。 青や赤、黒に変わる空からは黒い烏がいつも観ている。 硬い道の上では、大きな塊がすごい速さで動いている。 僕とは違う生き物と毎日会うけど、みんな形が違っていて言葉も通じない。 ニンゲンに紐を付けられている犬を目にする。みんな威嚇するか、無視をする。 まるで、ニンゲンみたいだ。 僕はニンゲンが捨てたゴミを食べて生きのびた。なんでニンゲンは食べ物を捨てるのか、僕には分からない。 ニンゲンに捨てられた僕が、ニンゲンに捨てられた食べ物で生きているのはヘンな気持ちだ。 あれから三年後。僕は大きくなった。 泥がついて汚れているが、白い犬だ。 ある日の夜、一人のよぼよぼのニンゲンと一匹の犬に出逢った。 彼らは、いつも紐で繋がれているアイツらとは少し違っていた。ベルトが犬に付いている。 俺は無視をしようと思ったが、黄色い犬が話し掛けてきた。 「君、飼い主とはぐれたのかい?」 俺は面倒だったので、返事をしなかった。 「飼い主がいないのかい?困ってない?」 やけに馴れなれしい犬なので、少し頭にきた。 「そうだよ。独りだよ。お前には関係ない」 俺がそう返事をすると、一緒にいたニンゲンが黄色い犬に話し掛けた。 「どうした。カズヒコ?お友達かい?」 なんだこのニンゲンは。どこを見てるんだ?俺が見えないのか? 黄色い犬がニンゲンに答えた。 「初めて会ったけど、独りなんだって」 この犬は馬鹿か?ニンゲンに俺たちの言葉は通じない事も知らないのか。 「そうか。心配な子がいるのか。君、よかったら家でご飯でも食べていかないかい?」 ニンゲンが俺に向かって話し掛けた。それに黄色い犬の言葉も通じたようだ。 俺には、どちらも初めての経験だった。
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