名前の無い犬

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黄色い犬が俺に話し掛ける。 「僕の飼い主さんは、目が見えないんだ。だから、僕が道案内してるの。飼い主さんは僕の言葉を少しだけ分かってくれるんだよ。行くところがないなら、家に寄っていきなよ」 俺は、なんだかイライラした。でも、飯が食えるなら何でもいい。俺はついて行く事にした。 ニンゲンの家は、すぐ近くだった。 俺はドッグフードというやつを貰った。 うまい。ゴミよりも、うまかった。 黄色い犬が話し掛ける。 「君、名前は?僕はカズヒコ」 俺は面倒だったが返事をする。 「無い」 黄色い犬が応えた。 「へぇ~ナイかぁ。変わった名前だね」 面倒くさい。もうそれでいいや。俺は返事をしない。 「僕の名前は、飼い主さんの死んだ息子さんの名前なんだって。その前の育ててくれた飼い主さんはポワロって名前をつけてくれてた」 俺にとってはどうでもいい話だ。 無視してドッグフードを食べていると、ニンゲンがやってきて黄色い犬に話し始めた。 「ごめんな。もう一緒にいてあげられなくて、明日から入院するから、もう家には帰れないんだ。癌ってゆう病気であと一ヶ月で死ぬんだよ。だから、これが最後の夜ご飯だよ。友達とご飯が食べれてよかったな。ごめんな」 黄色い犬がニンゲンに話す。 「大丈夫だよ。寂しいけど、僕は大丈夫だから」 ニンゲンは、黄色い犬の頭を撫でて静かに笑っている。 「このニンゲン死ぬのか?お前も野良になるのか?」 俺は珍しく自分から話し掛けた。 黄色い犬が答えた。 「うん。もうすぐ飼い主さんは死んじゃう。でも、僕は次の目の見えない新しい飼い主さんのところに行くんだ。まだ保養施設に行くのは早いから」 こいつが何を言ってるのかは、あんまり分からなかったが俺は返事をする。 「行くところがあるんだったら、よかったな」 黄色い犬が寂しそうに言う。 「よくないよ。飼い主さんは、僕が来るまで独りぼっちだったんだ。息子さんが事故で死んじゃって、飼い主さんもその事故で目が見えなくなって。それで僕が来たんだ。それなのにまた独りぼっちにして、死んじゃうんだ。僕には何もしてあげられないんだよ。全然よくないよ」 なんだかイライラするけど、こいつは次の家も飯もあるのに、何がよくないんだ? ニンゲンがご近所に最後の挨拶に行くらしい。 黄色い犬もついて行く。 俺はドッグフードを食べ終わったので、寝ぐらに帰ろうとした。
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