名前の無い犬

4/4
前へ
/4ページ
次へ
すると黄色い犬が俺に呼び掛ける。 「じゃあね!またね」 もう会う事もないだろうから、俺は返事をしなかった。 俺が角を曲がってしばらくすると、大きな音がした。アレは大きな動く塊が急に止まる音だ。 俺は気になったので、また角を曲がって戻った。 そして俺が見たのは黄色い犬が倒れている光景だった。 俺は駆け寄ってかすれ声の黄色い犬の声を聴く。 「飼い主さんは無事かい?」 こいつは、このニンゲンを庇ってひかれていた。 俺は咄嗟に返事をする。 「無事だよ。お前馬鹿か?このニンゲンはもう死ぬんだろう。庇う意味あるかよ!」 黄色い犬が静かに応える。 「飼い主さんだから...」 黄色い犬が死んだ。ニンゲンは黄色い犬の名前を何度も呼んでいる。 周りにニンゲンが集まってきたので俺はそこを離れた。 イライラする。 なんだアイツ。イライラする。 ニンゲンを庇って死んでどうするんだ。あのニンゲンはもう死ぬのに。あのニンゲンもそうだ。たかが犬が死んだくらいであんなに泣いて。 イライラする。 白い犬は、さっきの場所に向かって大きく吠えた。 そして、寝ぐらに戻る。 夜もふけてきた。俺は眠る。 俺は白い犬だ。名前はナイ。 面倒くさいので、もうそれでいい事にした。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加