第1章

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 夕飯の後でのことだった。  リビングのソファでくつろいでテレビを見ているところに。 「おまえは母さん似だな」  ソファの後ろから父さんがぼそっとつぶやいた。  父さんの言葉が胸にひっかかって、テレビを見て笑っていた俺は表情を固まらせる。  ちょっと待て。断固として認められない。 「母さん似だって? どこがだよ?」  反論するために振り返ったところに小さなスリッパの音がやってくる。 「はいはい、お茶が入りましたよ~」  間の抜けた調子は母さんならではだ。  母さんが、湯呑みを三つのせたお盆を抱えてテーブルに湯のみを置いていく。 「はい、あなた。はい、九(きゅう)ちゃんのお茶も入れたからね」  母さんが細い目でにっこりする。  テーブルにコトと置かれた湯呑みを見て、俺は「あっそう」と答えた。  俺は母さんに似ていないと思う。  というか、そう信じている。  視覚的に見て取れる部分ーーつまり外見のことだが、九十九パーセント違うと言える。  まず、耳が違う。母さんの耳は図形でいうなら三角形だ。それに母さんにはふさふさの赤茶色の動物の毛がはえている。  体の大きさなんて、身長が百五十七センチある俺の半分くらいまでしかない。
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