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その顔も、もちろん猫の顔だ。
「ちょっとひどいんじゃないの、その言い方」
母さんは少し傷ついたようだった。
俺はテレビに集中していて聞こえないふりをした。
「ねぇ、お父さん。ひどいわよね?」
母さんが甘え声で父さんに訴えかける。
「たしかにひどいな」
新聞をバサッとおいて茶をすする父さん。
これは答えを考える時間をかせいでいるのだと俺は知っている。
「それにしても、いつ飲んでも母さんの入れるほうじ茶は宇宙一だな」
父さんは、ほうじ茶をほめることで母さんをなだめることにしたらしい。
お茶を飲んだ顔を上げた時、お茶からあがる湯気で父さんの四角い眼鏡は真っ白に曇っていた。
「あらあら」
母さんは、かかざずフリルエプロンから手拭いを取り出して、父さんの眼鏡をやさしくぬぐってやる。
「ありがとう母さん」
「いえいえ。ゆっくり飲んでくださいな。あら、もう飲み終わったのね。おかわりはどう?」
母さんはいつも父さんの眼鏡をふくために手拭いをポケットに入れてるんじゃないだろうか。
あんたら新婚じゃないんだよ。眼鏡くらい自分でふかせろよ。と、心の内で俺はぼやいた。
「ほら、おまえも温かいうちに飲みなさい」
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