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埠頭のベンチに初老の男が座っていた。身なりは流行おくれで、白い手袋をはめ、その手で杖を支えていた。都会の公園には似つかわしくない大きな烏が何羽か、男のいるスペースに羽を休めていた。 背後からマサルが呼びかけた。 『ここ空いてます?』 『結構ですよ、』 『すみません、ありがとう。』 マサルはベンチに腰かけ、煙草を探しはじめた。一本つかんだところでもう一度声をかけた。 『煙草構いません?』 『どうぞ、お構いなく。』 マサルはライターを擦り、煙を吸い込んだ。 『ゴールデンバットですね、なんとも懐かしい。』 『安タバコしか吸わないもので。』 『ゴールデンバットはいい煙草ですよ。』 『ありがとう。』マサルは隣に座っている男が、どことなく他人には思えない気がしてきた。『おたずねしますが、七年まえここへ来てらした山王さん…?』
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