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あの事故の後、私はどうしてあんな所に座り込んでいたのか分からないでいた。
目に浮かぶ涙も、掠れた喉の原因も。
ふらふらと立ち上がり、おもむろに家路につく。
私は、何をしていたんだろう。
ザクザクと雪を踏みしめる音が響くたび、喉元まで何かが込み上げる。
そして、云われない喪失感。
私は、何を失ったというのだろうか。
次の日も、教室の中はいつもと変わらない。
紺くんも、恵那ちゃんも、武蔵だっている。
いつもと同じだ。
あれから1年後......。
季節はめぐり、またパンジーが花を咲かせる。
昼休み、日課にしている花壇の水遣りに向かう。
如雨露に水を溜め、持ち上げる。
とても重たい。
変だな、毎日していることなのに。
どうしてこんなに新鮮な気持ちなんだろうか。
分からないまま、やっとのことで花壇の前まで辿り着く。
今日もパンジーは元気に花に色をつけている。
確か、黄色いのは私で、このピンクは恵那ちゃんので。
紫が紺くんだったな。
......じゃあこのオレンジは?
武蔵の?いや、違う。
これは......。
私の中で上昇する記憶。
海底深くから、ぐんぐんと水面を目指しているように。
忘れていた何か。
私は、走り出していた。
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