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俺の行き付けのゲイバーに、『マリモちゃん』がいる。
彼女は、いや、彼は身長が178センチあり、胸板は厚く腕や足の筋肉もしっかり付いた逞しい体と彫りの深い顔立ちをしている。
その立派な体躯にフリルだらけのワンピースを纏い、重そうな付けまつ毛とグロスたっぷりの口紅で化粧してショートボブのかつらを着けた姿は、まるで忘年会の余興用のコスプレだ。
客相手に鼻に掛かった甘え声を出しながら女のような口調で喋っているが、どこかぎこちない。
要求されればゴツゴツした指でチーズやソーセージを摘み、口元まで運んでやる。
こんな時、顔は笑っていても、瞳の奥に警戒心が宿っていてるのを俺は知っていた。
俺はいつもと同じカウンター席でウィスキーを飲んでいたが、背後のボックス席からマリモの笑い声が響く度に体を少し傾けて様子を窺った。
何気ない素振りのつもりだったのに、ママが気付いて俺に言う。
「ティーくん、そんなにマリモが気になる?」
気になる。
でも詮索されたくなくて笑って誤魔化していたちょうどその時、買い物から戻って来たキナコが冷たい外気を纏ったまま俺の所まで突進し、マフラーを外しながら大声で言った。
「ちょっとママ!
コンビニのバイトのイケメンくん、辞めたって知ってた?」
キナコもマリモに負けず劣らず迫力のある容姿の持ち主だ。
ただし、彼の方は筋肉より脂肪が勝っていて、動く度に柔らかそうな腹も揺れる。
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