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ママが小首を傾げてキナコに答えた。 「あら、そうなの? 入ってからまだ1ヶ月経ってないんじゃない? 相変わらず定着しないわねぇ。」 キナコは買い物袋をカウンターにドンと起き、俺の隣の席に腰掛けると、 「あの店、幽霊でも出るのかしら?」 と低音で囁き、いきなり腕に抱き付いて言った。 「怖い、ティーくん!」 こんなおふざけは慣れている。 よしよし、と頭を撫でてやっていると、急に後ろから声が迫った。 「キナコ~。 あたしが頼んだドリンク買って来てくれた?」 振り返ると、そこにマリモが立っていた。 彼は俺の顔を全く見ずにキナコと会話する。 俺の事を意識している証拠だ。 焼き餅を焼かせたくてわざとキナコが抱き付いたままにしていたら、ついに彼が俺に視線を合わせて言った。 「ティーくん、キナコからインフルエンザ移されるかも。」 途端にキナコが精一杯の金切り声を上げる。 「インフルはもう治ったわよ! あんたこそ、風邪気味でだるいって言ってたじゃん!」 それを聞いて、俺は驚いてマリモに尋ねた。 「マリモちゃん、具合悪いのに無理して出勤したの?」 マリモが答えるより先に、ママがカウンター越しに身を乗り出して言う。 「あんた達、ティーくんとケンんちゃんが優しいからって甘え過ぎよ! お客さんに心配掛けてないで、ちゃんと自分の仕事しなさい! キナコは買い物袋を片付けて! マリモはケンちゃんの所に戻ってお酒の用意! グラスが空になってるじゃないの!」 ママの指示に従って慌てて動き出す二人だったが、ボックス席にいたケンちゃん(自称アートディレクター)が笑いながらこっちに手を振って言う。 「ママ、怒らないで! まだ俺たち常連客しか居ないんだし、このゆるい感じが心地いいんだから。 ね、ティーくん!」 言われて俺も 「あ、はい。」 と答える。
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