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実の所、俺が彼と初めて会ったのは、ボックス席での対面より少し前だった。
一次会の居酒屋を出る直前から俺は尿意を催していて、同じく我慢の限界に来ていた後輩と共に、一番近くにあった店に転がり込んでトイレを借りたのが切っ掛けだ。
後輩は一目散に便器に向かったが、俺はその時、洗面台の前に格好良い短髪の美青年がいるのに気付いて、擦れ違いざま二度見した。
それが素のマリモ、玖々里万理(くぐり ばんり)だった。
トイレで見た時はどう見てもマッチョな兄ちゃんだったのに、30分後にホールに現れた彼はド派手な女装姿で衝撃を覚えた。
はっきり言って、美男子がお化けの着ぐるみになった、くらいの変わりようだ。
しかし後に、ママから
「マリモはあれでもマシになったのよ。
本人は綺麗になろうと努力してるの。」
と教えて貰った。
俺としては、このギャップが惚れた原因だと思っているから、今のまま変わらずいて欲しい。
とにかく、この時俺は茫然自失の状態で、初めて見るマリモを馬鹿みたいに注視していた。
しかし、余りにじろじろ見たのがまずかったらしく、俺達のテーブルに着いてくれた彼は他の子が出勤して来ると直ぐに交代で別のテーブル席に移ってしまった。
それ以来、こんなに通い詰めているのに、マリモは俺に素っ気ない態度を続けるばかりだ。
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