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騎士としての心構えということか…。
まだ問い詰めてないからというのもあるだろうけど、余計な感情で隙を見せないように気を引き締めているのが伝わってくる。
「すまない。遅くなってしまった」
エレーナの声だ。
背後を見ると、エレーナとエステラ、それと恐らくエレーナの部隊の騎士二人がこちらに近づいてきた。
「特に変わりないか?」
「ええ、特には」
「そうか」
エレーナとアーシアの短いやり取りを横目にエステラがクルドの足元に近づき、
「本当にクルドだったのだな」
そう呟いた。
「んん。んんん…」
足元から唸り声が聞こえてきた。
クルドの身体が微かに動いた。
辺りに緊張が走った。
俺含め、皆が剣を構える体勢をとった。
「ここ…は…」
クルドはそう言いながら、自分の状況を理解したような表情で
「私ももはやここまででしょうかね」
と笑いながらそう言った。
「観念しろ。貴様の魔法はもう使えない」
「おやおや、どうやって制御したというのです?」
クルドは自分の左手を眺めながらそう呟いた。
「そんなことはどうでもいい。ここまでの行動は、貴様の意思に基づいてのものか?それとも誰かに仕向けられてのものか?」
エレーナの問いかけにクルドは不敵な笑みを浮かべて、
「残念ですが、これは私の意思によるものです。王から授かった魔法も、幹部のアダレイドにアーシア・マルゾーナのことを告げ口したのも、すべては私の意思。この国のためにも、あなた方の行いは見過ごせなくなった。そういうことです」
すべて自分の意思…。
さっきのアーシアの話もあってか。俺の心にも重く突き刺さった。
「ほう。つまりは反魔王軍への謀反ということだな。貴様はどうやら、操られているわけではないようだ。となれば、魔王軍のこと洗いざらい吐いてもらおうか」
「さもなくば命はない…。といったところですかね。ハハハハハ」
「何が可笑しい!!」
エレーナが声を荒げた。
ほかの騎士たちも怒りを抑えているような表情だ。
「私は王の命によりこの任務についている王都の騎士、私を殺せば王都から援軍がくるでしょう。かと言って王都の内部についてはなにも言う事はありませんがね」
狂気じみた笑いと共にそんなことを言っている。
こいつ、この状況を何とも思わないのか?
「こちらに戻るということはないのだな」
とエステラがクルドに問いかけるが、不敵な笑みを浮かべながら首を横に振った。
「言ったでしょう。私は王の命でここに来たと。かつてどうだったかなんて関係ない。これは私の意思であると」
「そうか」
エステラは険しい表情のまま、「連れていけ」と騎士たちに指示した。
エレーナ部隊の騎士たちはクルドを立たせ、地下本部へと手荒く連行していく。
小さくなる背中を見送る騎士たちを見て、俺はうつむくことしか出来なかった。
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