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「前と同じ方法でですか?」
俺は一応確認した。
「あぁ、今のところそれが一番確実だからな」
エレーナは真顔で当然かのようにそう答えた。
協力している身ではあるが、壊し屋使いが荒いと感じてしまう。
「わかりました」
俺はクルドの右手首を左手で掴み、息をすうっと吸い込んだ。
魔力を俺の左手からクルドの身体に送りこむイメージで…。
身体が鎖に覆われるかのように…。
すると、魔力に反応してか、クルドの左手の甲が腫れ上がり、血液を纏った紫色の鎖状のものが皮膚を突き破り、顔を見せた。
俺は右手で鎖を掴み、クルドの手から引き抜いた。
そしてすぐさまエレーナに手渡した。
エレーナが受け取った鎖を見つめていると、鎖は一瞬にして錆色に変化して粉々になった。
「アーシア・マルゾーナの時と同じだ。身体から引き離すと消えてしまうな。これは本当に君の仕業ではないんだな?」
「はい」
最初に鎖を掴んだのは俺ではあるが、魔法を使う前なのだから壊せるはずがない。
「仕方ない。彼の意識が戻ったら問い詰めるとしよう。傷を負っていないからすぐに目覚めるはずだ。武器の回収と手首の手当てだけしておいてくれ。私は一度戻って隊長に報告してくる」
そう言ってエレーナはギルド奥の本部へと消えていった。
沈黙の中、クルドを見張る時間が流れる。
つい最近命懸けの戦いをした騎士と同じ場に立って、同じ見張りをしている。
彼女は覚えてないみたいだが、俺にとってこの状況はとても気まずい。
沈黙が続く中、アーシアは慣れた手付きで傷の手当てを施していく。
「これで大丈夫ですね。すぐに目覚めると思うので、しばし待ちましょう」
「はい」
クルドの手にはあて布が巻かれ、床に落ちていた剣もアーシアが回収した。
「この人って反魔王軍の人だったんですよね?どうしてこんなことに?」
「本来であれば彼も私と同じ反魔王軍のスパイとして、王都に潜伏していました。彼自身とても勤勉で、鍛錬を怠ることなく、王都の騎士として、私の部下として日々尽力してくれていました。しばらくして、本部から西側の村での護衛任務が通達されたその日、彼はアダレイド・ホルクスとともに現れ。私を捕えました。王都の資料にあった鎖の魔法の影響なのか、彼の中で何か心変わりがあったのか、彼は同じ志持っていた時の彼とは別人になっていました」
アーシアの声から悲しみや悔しさ、いろいろな感情がこもっているように思えた。
しかしすぐに
「ですが、こうなってしまったからには仕方がありません。まずは目の前の敵を問い詰めましょう」
と淡々と言った。
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