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第漆章 ニライカナイ⑧島原の乱裏話〜開戦前夜〜(亜神視点)
寛永14年(1637年)島原半島──────────
【キリシタン大名・有馬晴信】が居城としていた【原城】には、地下に【礼拝堂】があった。
立派な祭壇があり、信者が腰を掛ける長椅子が等間隔で並べられていて結構本格的な『教会の礼拝堂』の設備になっている。
礼拝堂にひときわ存在感を主張するように設置されている【マリア像】を【闇神・カオス】は無表情に眺めて連れに言った。
カオス「【コスモス】………ここの【宗派】が崇める【神】は【ゼウス】という【男性神】ではなかったか?」
この【像】は『赤児を抱いた女』のようだが、と疑問を口にする。
コスモス「詳しい理由はわかりません。ですが、【ロザリオ】と呼んでいる『十字架の首飾り』を付け、【マリア像】に祈りを捧げるのが、この【宗派】のスタイルのようです」
わからないなりにも、【信仰】の作法を言ってこの【マリア像】に祈りを捧げる者たちは【キリシタン】と呼ばれているらしいことを説明する。
コスモス「何か………偉い人に見つかると大目玉食っちゃうらしいので、【隠れキリシタン】という言い方が、一般的のようですよ」
大目玉どころか、処分されているのだが【コスモス】は、捕縛連行されていることを指しているようだ。
カオス「なるほど………隠れてコソコソ………【混沌】だ。ここが【混沌】の源………」
コスモス「【カオス】………アナタ、【混沌】の源を探すのが面倒で、それっぽいのを適当に【混沌】ということにしようとしてますね」
【コスモス】は【カオス】が配下の【真魔十三忌将】の【蟲将・森宗意軒】を使って、【市井】を調べさせ自分はずっとこの【礼拝堂】に引きこもりしているだけなのに、まだ横着をする気かと説教を始めた。
【闇神・カオス】【光神・コスモス】は【二柱一対】の【亜神】である。彼らは、本来は【天上界】から【人間界】の動静を見守り、【人間界】の疑問点は【神の使徒】または【神の軍勢】と呼ぶ配下の者を【人間界】へ送り調査させるのが通常業務なので、滅多に【人間界】へ降臨しない。【亜神】の降臨は【天の御柱】が【天上界】と【人間界】を繋ぎ、非常に眩しく発光するので目立つ。しかし、【闇神・カオス】はそれを【闇】で覆って隠したので、【カオス】と【コスモス】は人知れず『お忍び降臨』している。
そして、【降臨】したのが【日本】の【島原半島】だ。ここが最も【混沌】に覆われていた。
【亜神】には【権能】や支配する【概念】がある。【カオス】は【闇】【混沌】を司り、【コスモス】は【光】【秩序】を司る。【対】になる【亜神】は両極端の【概念】を司るので、あまり仲良しと言える関係にない【神】が割といるが、とりわけ【カオス】と【コスモス】は【水】と【油】の関係が如実に表れている。
【混沌】が満ち溢れた【島原半島】で【カオス】は廃城になった【原城】を目に止めて、人が寄り付かなさそうだから潜伏拠点にすることに決めた。【コスモス】は【幽霊】がいそうな廃城に入るのを躊躇ったが、【カオス】が勝手知ったる様子でどんどん中を進んで行くので、ついて行くしかない。背後で【コスモス】はブツブツと【カオス】に恨み言を【呪文】のように途切れることなくつぶやいている。
しかし、【カオス】の予想は外れて【原城】には、この城を居城にしていた【大名】の元家臣たちが『不法入居』していた。見つかるわけにいかず、地下室があるようだったのでやって来て現在の状況だ。
【コスモス】は【幽霊城】(コスモスの勝手な想像)を拠点にするだけだでも嫌だったのに、【地下室】に潜伏するとなって更に悪態ついた。【カオス】は、これは延々と終わることなく続くなと察した。【原初】の【亜神】である【闇神】【光神】は【旧支配者】と呼ばれる【クトゥルフ】たちが【人間界】を支配していた頃からの付き合いだ。既に数万年以上の歳月が過ぎている。こうなった時の対処法もバッチリだった。
【カオス】は【マリア像】を指して【コスモス】に説明を求め、【コスモス】は『うんちく』を話し出して、【カオス】は話を逸らすことに成功した。
【コスモス】は、『うんちく』の講釈をしながら長椅子に腰掛ける。話しながらザッと周囲を見回して、この地下室は掃除が行き届いていて清潔に保たれていることがわかった。
【カオス】は、しばらくここに引きこもりになるので、【コスモス】がここを気に入ったことに、ひとまず安堵する。
【カオス】は、【人間界】の情報収集を【森宗意軒】に一任する。【混沌】が充満し過ぎて【コスモス】の【光の使徒】が使えないからだ。正しくは、【光の使徒】が【混沌】に遭遇したら容赦なく【秩序の元】に【天誅】を加えてしまうので、気軽に使い走りさせられない状況だった。
【森宗意軒】は【カオス】配下で【高位】の【真魔十三忌将】だったので自身の【眷属】になる【配下】を持つことができる。彼は【眷属候補】の【人間】2人を連れていた。
森宗意軒「『我が【神】』よ………名誉あるお役目を頂き光栄の極みです」
【森宗意軒】は、普段は【カオス様】と呼ぶが、【人間】2人の手前呼び方をあえて変えている。知恵の回る人物だ。そして、【コスモス】のことはガン無視だ。温度差が激しい。
森宗意軒「この者たちは、現地で知り合った者たちです。『我が【神】』に名を告げるお許しを頂けますか」
【森宗意軒】は、名を知らなければ不便なので名乗りの許可を求めている。【カオス】は頷いた。そして、【森宗意軒】は【由井正雪】と【丸橋忠弥】だと告げて実はもう1人我が手に加えたい【人間】がいて、その者が仲間になることを渋った時は【カオス】に力添え願いたいと言った。
現状、【カオス】と【コスモス】は活動を自粛するしかない状態だった。【混沌】が満ちたこの地では【混沌の神・カオス】は禍々しい闇を撒く【魔王】にしか見えず、【秩序の神・コスモス】は【負】の気配を纏う者を見境なく【天誅】していくやはり【魔王】と同列に見えてしまう。この【原城】の中が最も【混沌】と【秩序】が安定した状態に保たれている。
【森宗意軒】に調査、情報収集を丸投げした【カオス】と【コスモス】は、引きこもっている間に【江戸時代】の【法】や【納税】などの一般常識の知識をつけておくことにする。
【森宗意軒】が戻って来て、新たに【人間】が増えていた。追加予定は1人と聞いていたが、目の前の2人と隠れている2人の4人である。
【秀頼】は、【カオス】と【コスモス】を目に留めた途端、膝を付いて頭を下げた。自分でも驚いている。かつては【関白】という地位にあった自分が自ら跪いて頭(こうべ)を垂れるとは、母親の【淀殿】がここにいたらヒステリックに喚いて叱られそうだ。【貞】も父親に倣って同じようにしていた。彼も2柱の【神】が大いなる【存在】と気づいている感じである。
コスモスは、待っている間に読んで覚えた【日本語】を披露する。
コスモス「苦しゅうない。面を上げよ」
状況的に言葉のチョイスは正しい──────────目上の者から面を上げよ と言われなければ、ずっと頭を下げた姿勢のままだ──────────が、【森宗意軒】は【カオス絶対至上崇拝者】なので、【カオス】を差し置いて出しゃばった【コスモス】への怒りでコメカミの辺りがピクピクしている。
【カオス】は、覚えたての言葉を使いたい子どもか、と呆れて首を左右に振ってため息をついた。
面を上げよの許しを得て、顔を上げた【秀頼】と【貞】は僭越ながらお聞きしたいと遠慮がちに言った。
【日本語】をマスターしていたので、【カオス】と【コスモス】は【秀頼】と【貞】が教養のある【人間】だと気づく。
【カオス】は許可すると無言で頷いた。
秀頼「ありがとうございます。貴方様方は、【ゼウス様】と【マリア様】でございますね」
全然違います、と否定しようとした【コスモス】の口を【カオス】は自身手のひらで押さえつけて、黙らせる。モガモガと文句言いたげな【コスモス】をスルーして【カオス】は鷹揚に頷いた。
カオス「いかにも。我が名は【ゼウス】である」
【ゼウス】は【キリシタン】が信仰する【神】なのだが、【亜神】と似ているようで違う。【森宗意軒】は目をクワッと開いて、何をおっしゃるかと【カオス】に問いたかったが【カオス】が【念話】で、「ここは【ゼウス】と【マリア】で通す」と告げた。
【亜神】には【人間界】の【神話時代】の知識があるので、【コスモス】が自分の扱いが【カオス】より格下なのが気に入らない。
コスモス(【マリア】は【人間】じゃないですか!私のことは、【ヘラ】と言い直してください!)
カオス(断る!お前と夫婦役など気色悪い。虫酸が走るわ)
【ヘラ】は、【ゼウス】の妻に当たる【女性神】だ。【キリスト教】の本場なら、【ゼウス】と【ヘラ】の【夫婦神】で信仰するかもしれないが、【日本】の【キリシタン】は【ゼウス】が唯一神で【ゼウス】の寵愛を受けた【マリア】を【像】として【祈る】という形式をとっているので、【キリシタン】に効果があるのは【ヘラ】ではなく【マリア】のほうだ。
【マリア】役に文句を言っている【コスモス】を放置して【カオス】は【教徒】たちを集めよと告げた。
正真正銘の【神】の言葉なので、従順な肯定の返事しか返って来ない。
そして、翌日の深夜に【キリシタン】たちは【原城】の【地下礼拝堂】へ集まった。
【キリシタン】たちの間で使う合図のようなものがあって、『緊急招集』の合図をすれば翌日にでも集まるとのことだったが、【礼拝堂】を埋め尽くす人数に【カオス】はよくこれだけの数がコッソリできたものだなと、少し感心した。
【コスモス】は、『ルール違反者』がこんなに、と言いながらも正しいのは『無秩序』の方、とブツブツ言って【秩序】を外れた者が正しい矛盾に何やら葛藤している。
【祭壇】の前に【秀頼】が立って、【キリシタン】たちに演説している。内容は、自分が実は【大坂夏の陣】の後【長崎】へ逃れて来た【豊臣秀頼】だと正体を明かした。そして、息子の【貞】の母親が【石田三成】の遺児【清姫】だったことも明かした。
【キリシタン】たちには、驚く者や彼らの所作から【武家】出身と推測が当たっていたのを納得する者など反応は分かれるが、非難する者は1人もいなかった。むしろ、【豊臣】の生き残りは【幕府】に対抗する【希望】にすら捉えている。
そして、【秀頼】の演説が【ゼウス降臨】に差し掛かると、【十字架】をバックに『宙に浮遊する』【カオス】が現れた。
その姿に【キリシタン】たちは「ゼウス様」だと歓喜の声を上げる。
一方、【カオス】はこの【集会】早く終わってほしいと思っていた。【カオス】がバック にしている【十字架】には【コスモス】の【光の加護】が【付与】されている。演出の為に【カオス】は【十字架】を【創造】したが【闇の神通力】のせいで『どす黒く禍々しい』【十字架】になった。これでは【ゼウス】ではなく【サタン】だと嘲笑してから【コスモス】は【光の加護】を【付与】した。おかげで【十字架】は神々しく光り輝いている。演出効果は抜かりなくバッチリだが、相反する【闇の加護】を持つ【カオス】は背中がチリチリして痒いのを堪えている。今、この時間が【カオス】にとって『くすぐり刑』の拷問に等しい。
集会前───────────
【カオス】は【藩主】【領主】の【上位】にある【将軍】【老中】に告げ口して過酷な取り立てはやめさせられないのか、と訊く。
森宗意軒「『我が【神】』よ、恐れながら御進言いたします。ただいまおっしゃられた事柄を【直訴】と申しまして………この国においては【死罪】となります」
【カオス】は、【コスモス】がこの時代の【人間】だったら【死罪】になるなと考えていると、【コスモス】が正道の行いをして罰せられるのは間違っている、と『【秩序】の演説』を始めそうになったので【カオス】は【森宗意軒】に【直訴】について詳しく聞き出す。【直訴】については【コスモス】も気になっているので聞き耳を立てている。
カオス「ふむ………要は【生贄】が必要ということだな】
コスモス「【人間】の【生命】を守るための行動で犠牲者を出してどうするんですか!本末転倒ですよ!」
腰を掛けている長椅子をバンバン平手で叩きながら言う。【コスモス】は興奮したり、興が乗ると手当たり次第に平手で叩く癖がある。
カオス「お前は視野が狭い。もっと大局を見据えろ………【個】の犠牲で【多】を活かすことができる」
【秩序の神・コスモス】は【犠牲】で成り立つ【平穏】は認められない。しかし【混沌の神・カオス】は【平穏】の為の『多少の犠牲』はやむなしと考えている。
堂々巡りで話がまとまらない中、【秀頼】が【森宗意軒】に『本来いないはずの人間なら犠牲にならないはず』と話を持ちかけていた。
【森宗意軒】は【秀頼】が言わんとしていることを理解した。【由井正雪】も【秀頼】の意図に気づいて、彼は最良の落とし所だと納得した。二度と会うことがない父親との束の間の再会だったと諦観している。
貞「父上が【直訴】に【江戸】へ行くなら、同行します!」
【森宗意軒】が、予想していたとおりの【貞】の言動だが彼を仲間に引き込みたいので、同行されるのは困る。
しかし、これは先に【カオス】に意図を話しているので、完全【神頼み】だ。
カオス「ならぬ!お前には、【革命軍】の【旗印】となってもらう!反旗を翻すには【軍勢】をまとめる【指導者】が必要だ」
一同、黙って【カオス】の言葉に耳を傾けている。【人間】たちは、【カオス】を【キリシタン】の信仰する【ゼウス】と勘違いしているので彼の言葉は【ゼウス】の御神託と解釈される。
【森宗意軒】は、見ている者がドン引きするほど【カオス】にひれ伏している。どうやら【カオス】の言葉は、【森宗意軒】が期待していた以上のものだったようだ。
そして集会へ────────────
【地下礼拝堂】では、【ゼウス降臨】に【キリシタン】たちがひれ伏していた。
カオス「我が【神徒】たちよ、今日(こんにち)まで【大名】の横暴によく耐えた。しかし、耐えるのはここまでだ。我が【加護】を与えた武器を手に闘え!そして自由を手にしろ!」
【カオス】は、【マリア像】を示す。そこには【コスモス】が光り輝く【刀剣】を手にしていた。
【マリア様】だ、と【コスモス】の姿を見て誰かが呟いた。そこから、一同が【マリア様】コールを始める。
事前打ち合わせでは、【コスモス】を【マリア様】と呼ぶのを【森宗意軒】の【蟲】を仕込んだ【サクラ】を使う予定だったが、その必要などなくなっていた。【亜神】の神々しさは【仕込み】などいらない。
【コスモス】の手にしている【刀剣】は、【薩摩(鹿児島)】の最南端の島【沖永良部島】の【ニラの島(ニライカナイ)】に【封印】されている【香具夜】に【コスモス】が【光の加護】を【付与】して【聖骸化】し、それを【素材】に【創造】した【GE(創世)】ランクの【武器】である。【カオス】の【闇魔法・転移】で瞬間移動往復してこの為に用意した。【亜神】が【創造】したのでランクが【最上級】の【GE(ジェネシス)】になっている。
コスモス「【豊臣秀頼】が第2子の【貞】よ、この【創世剣・ハハキリ】を授けます。貴方が【軍勢】の【指揮者】です」
【コスモス】は【聖母マリア】と勘違いされているので、この言葉は【聖母マリア】の【神命】と捉えられる。
カオス(【刀剣】に名付けまでする必要はあるのか?)
【念話】で【コスモス】に問う。
コスモス(こういうのは【形】から入るのが大事なんです!)
カオス「【貞】よ………私から、其の方へ【武士の名】を与えよう」
信者たちにどよめきが走る。
カオス「【時貞】………出身地の【天草】を【姓】とし、今後は【天草四郎時貞】と名乗るが良い」
天草四郎「はっ!御名を賜われるとは………誠に勿体なきことにございます。謹んでお受けいたします」
跪いて頭(こうべ)を垂れる【天草四郎】に【カオス】は満足げに頷いた。【コスモス】が勝手に【刀剣】に名付けをした意趣返しだったが、【神】から【名】を賜ったという事実は【天草四郎】が【総大将】と皆が納得して従う決定打になった。もっとも【キリシタン】が信仰する【ゼウス】とは全く異なる【神】だが。
カオス「我が子らよ………【秀頼】は今日、【江戸】の【将軍】の元へ【直訴状】を届ける」
【直訴】と聞いて、一同はそんなことをすれば【死罪】だ、届ける前に【無礼討ち】されてしまうと悲痛な嘆きを口々に言うが、1つ見落としをしている。【カオス】は今日と言ったが、【長崎】から【江戸】まで馬を使っても数時間では行けない。
コスモス「【秀頼】は、勇敢な【神の戦士】として【ゼウス様】の元へ招かれます。皆のもの………嘆くことはありません【ゼウス様】とこの【マリア】の【加護】で【秀頼】は無事に【直訴】を終えることを約束します」
【コスモス】は右手に持った先端に『【十字架】のモチーフ』が付いた【錫杖】を掲げる。この為に急拵えしたが、【素材】は【聖骸化】した【香具夜】の【パーツ】なので【SA(神聖)】クラスである。因みに【コスモスの手】という名付け済だ。【秀頼】の周囲が光り【光の加護】が【付与】されたように見せる。実際は【付与】していない。【人間】は目で見たものは信じる。ましてや集団で複数名同じ光景を見た者が入れば、疑うことなく確信する。その【集団心理】を利用した演出だ。
【カオス】と【コスモス】は、互いに当てつけで【名付け】合戦はしていたが、【生き物】には簡単に【加護】を与えない。
そして、【秀頼】の体から【光】が収まった時には【秀頼】の姿はそこになかった。【カオス】の姿も消えている。【カオス】は【転移】で【秀頼】と隠れていた『【忍】2人』を一瞬で【江戸城】まで移動させた。
一同は、【ゼウス様】が【秀頼公】を【将軍】の元へお連れくださったと口々に言って、祭壇に向かって祈る。
【コスモス】は信心深さに感心し、この【人間】たちの為に【秩序】を取り戻さねばと決意を固めていた時、乱暴に扉が開いて息せき切った男が飛び込んで、悲痛な表情で「妻が………身重の妻が代官に攫われた」と絶望に打ちひしがれる。
『身重の妻』の言葉の意味をわからない【コスモス】には、何のことかはわからないが男の慌てた様子や表情から尋常でないことはわかった。
【コスモス】は通訳を頼もうとしたが、【カオス】に心酔する【森宗意軒】はアテにならない。彼の弟子と用心棒も同類と見ている。
【コスモス】は、破れかぶれの気分で宣言した。
コスモス「【ゼウス様】の戦士たち、今こそ【進軍】する時!【聖なる戦い(ラグナロク)】の開戦です!」
勢いで【コスモス】は告げると、この中で手練れっぽい【人間】を引き連れて【代官宅】へ【転移】する。【コスモス】が連れて行ったのは、『元【有馬家】の【家来】』だった【素浪人】たちだ。
そして、【代官宅】に着いたが遅かった。『【口之津村】の【庄屋】の妻』は、腹の子を流産して息絶えていた。遺体は全身ずぶ濡れでその姿から【拷問】のような『責め苦』を受けていたのは明らかだ。
【コスモス】は、その非道な行いに【天誅執行】の文字が浮かんだ。
コスモス「【ゼウスの神徒】よ………屋外へ行きなさい。その女性も連れて出るのです」
【コスモス】は『庄屋の妻』の遺体と一緒に【素浪人】たちが外へ出るのを確認すると、そこから【6間】(約10メートル)ほど離れなさい、と命じた。『【神】の言祝』に【人間】は逆らえない。言われるまま従うが、1人が【マリア様】も逃げてください、と言っていたのに対し【コスモス】は「ええそうしますとも。この【鬼畜外道】たちへ【天誅】を加えた後に」と告げた。
【代官宅】の【家来衆】や【代官】は貴様のような見るからに非力な女に何ができる、と嘲笑う。性根の腐りきった者たちには【コスモス】が放つ『【神】の【威圧】』がわからないようだ。
コスモス「愚かなる【鬼畜外道】たちよ………貴方たちは『【神】の【逆鱗】』に触れました。その身に【秩序の鉄槌】を受けなさい!」
【コスモス】は【天】に向かって両手のひらを掲げる。
直後、【代官宅】が不可視の力(ちから)により、木っ端微塵に潰された。家屋の中に居た者は勿論、敷地内の者も一瞬で【圧殺】だ。
【コスモス】は空高い位置からそれを見下ろしている。
この【代官宅】の襲撃が【島原の乱】開戦の狼煙となった。
左:カオス/右:コスモス
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