第陸章  逆襲花嫁事変〜【雪華葬挿③〜鬼神族それぞれの事情〜】〜

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第陸章  逆襲花嫁事変〜【雪華葬挿③〜鬼神族それぞれの事情〜】〜

※注)暴力的な言葉の表現があります。 ◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆  戻って来た(はじめ)(かつら)は、氷でできた【花】を模した『オブジェ』を見上げた。 『オブジェ』の中には、事切れた2人の男女、狐月(こげつ)愛美理(えみり)が寄り添う姿がある。  桂「【雪華葬挿(せっかとむらいざし)】か………やはり、素晴らしい造形美だ」  正に芸術と桂は感心する。中の狐月と愛美理には一切興味がないようで、『オブジェ』の周りを1周しながら左右の人さし指と親指で【枠】を作り、どの角度から見ても同じ造形美だと桂は、【雪華葬挿】の芸術価値にしか関心を向けていない。  実は(あきら)の【凍結行】は【造形忍術】という【種別】になり、【美術品】扱いされる。特に【雪華葬挿】は【生物】を中に閉じ込めて幾層もの【氷結】を重ね巨大な【一輪挿し】を造形するので、【美術品】【芸術作品】として価値が高い。【雪華葬挿】という【忍術】は必ず殺すという意味の【必殺技】なので、頻繁に使わないことから【稀少価値】もある。  朔「【子狐】は、やはり【ツガイ】と同じ【運命】を選択したか………」  朔には予想できていたようで、親子2代で【人間】とトラブルを起こしやがって、と呟いていた。  玲鵺「父親も、【鬼神の花嫁】を【狐火】でしたのか?」  親から何も学んでいないようだな、と含みのある言い方である。  朔「そんな度々、【狐火】を仕掛けるヤバい【一族】みたいに言うなよ………父親のほうは、【人間】に殺されかけただ」  朔の言葉に國光(くにみつ)は、どこかで聞いたような気がした。  國光「あ………【人間】に捕まった【子狐】の話だ………」  玲鵺「ほう………【古族】の伝承を知っているようだな」  玲鵺(れいや)が主催した【宴】で【成人】のお祝いをした人物であることを記憶にも残さなかったが、【古族】の伝承を知っているなら名前ぐらいは覚えておいたほうがいいだろう、と少し態度を緩和した。  朔「【焔狐(ほむらぎつね)】という強力な【火遁術】を操る【一族】のがこの『やらかし小僧』だ」  伝承では【闇嶽之王(くらみたけのみこと)】(朔の前世)自ら奪還に出向いているので、【妖狐族】の家格としては高位にあったと見える。 【今世】では【人間】に【転生】している朔の元へ【焔狐】の当主夫妻(狐月の両親)がやって来て、『愚息の罪の責任を果たす』ことを告げ朔にを遺して両名とも自害した。朔は、この期に及んでも狐月の名を呼ぶことはなかったが、狐月の両親に免じて【山の民の王】として狐月の最期を見届ける気になったのであった。  朔は【異空間巻物(スクロール)】から『狐の毛皮』を2枚取り出して玲鵺に押し付ける。処理済で頭部の付いた『狐の毛皮』だが、【神通力】を帯びた高い【チャクラ】を纏っている。  朔「【焔狐】のだ。それは2枚だ。【焔狐】の謝意として受け取れ!」 【焔狐】は死期には自らの【狐火】で身を焼いて、『狐の毛皮』だけを残す。これを『焔狐の家宝』と呼んでいる。朔がこれを所持しているということは、【焔狐】は最後に【山の民の王】を頼り全ての判断を任せたということだ。  朱貍「玲鵺、受け取れ。『焔狐の家宝』は、あらゆる攻撃を。お前の大切な【花嫁】のためにも貰っておくべきだ」  狐月の両親からの謝罪すら聞き受ける気がなかった玲鵺だが、【茨木童子の末裔(すえ)】の『寄親的存在』の【酒呑童子の末裔(すえ)】の当主に言われては、さすがに拒否できない。しかも持って来たのが朔なのだ。彼にはなくとも、宙広(そらた)が朔を【王様】と呼んで慕うように、【山の民】の【古族】は今の【人間】の朔を【王】と認めている。突き返す行為は【山の民】の【古族】へ宣戦布告する意味に取られる。  玲鵺「毛皮は、アクセサリーにもなるからな………【錬金術師】に【加工】してもらって髪飾りや腕輪にするのはアリだな」  憎き【妖狐】の親の毛皮を麻衣那(あいな)が纏うのは断固許せないが、小物アクセサリーに変えてが失くなれば多少は譲歩できそうだ。『焔狐の家宝』は非常にレアリティが高い。ブツが滅多に出ないことと性能の優良さで【古代級(エンシェント)】か【神聖級(セイクリット)】に該当する。  洸「毛皮の【襟巻き】や【ブーツ】ぐらいに加工しろよ」  その2点作ってもまだ1匹分使い切れないだろう、と洸はレアリティの高さから玲鵺がケチっていると勘違いしている。  忍武「洸、お前勘違いしてるぞ。【茨城の若】は【妖狐】を【花嫁】に纏わせたくないだ。つまり………『ジェラシー』ってヤツだな!」  彼女持ちの【男心】はお前より詳しいとドヤる忍武だが、前半は正しいが後半は見当違いだ。  それがわかっているようで、律鹿(りっか)が何とも言えない微妙な表情をしている。  愛美理の【遺体】の処遇について、麻衣那はダメ元で訊いてみる。  麻衣那「あの………私のワガママを聞いてもらえるなら、1周忌………いいえ、四十九日までここに置いてもらえませんか?」  愛美理とはこれっきりで永遠の別離(わかれ)になるので、形だけでも弔いをしておきたいのが麻衣那のお願いだった。その後は売るなり破壊するなり自由にどうぞということだ。  鞍馬天狗「破壊1択だろ。………分不相応にこんな立派な『オブジェ』にされてるのが許せねえ!」  太郎坊「俺も同意。【美術品】みたいに飾られていることにヘドが出そうだ」  愛美理の心の声を聞いていなければ、【太郎坊】は【亜神】に振り回された可哀想な【人間】と少しは同情したが、アレを聞いた後では怒りの矛先を収めることができなかった。  朱貍「【花嫁】の希望だ。1周忌を終えるまでここに残すことを聞き入れる」  ついでに、恨み言を言いたい者たちにここを開放するとも付け加えた。【酒呑童子の末裔(すえ)】の当主は実質的に【鬼神族】の【頭(かしら)】なので、これは決定事項になる。  桂「コレ、売ったら億単位になるぞ」  洸「………空気読めよ。そんな高額で売れたら、【鬼神族】のすごいことになるだろ」  一瞬、【億】の金額に洸はグラついたが【鬼神族】に忖度した。  比勇と忍武は、顔を見合わせて洸に対して「アイツ今、一瞬金勘定していたな」とヒソヒソしていた。  朔「1周忌には俺と葛葉(くずは)を呼んでくれ。【山の民】と【妖狐族】を代表して参列する」  今の朔には【山の民の王】の義務はないが、最期に自分を頼って来た狐月の両親への義理立てはしておきたい。  律鹿「くうちゃんが来るなら、私も参列しようかな………数少ないだし、昔話もたくさんしたいなあ」 【平安時代】から健在の【古族】同士は『種族の壁』が希薄のようだ。律鹿の口ぶりから【妖狐族】の当主である葛葉とは、あだ名を付けて呼ぶ仲らしい。  洸は、【罪人】の制裁が終わったから残りは【魔堕ち】した十鎖(じゅうざ)だ、と言った。  洸「その前に、柳生宗典(むねのり)の【罪】を聞かせてやる。あいつは【風魔頭領一族】にとっては『不倶戴天の敵』だからな………桂と朔が戻るのを待ってたんだ」 【風魔頭領一族】の2人が聞いていないと話す意味がない。  それについて、【後六天空】から予備知識を得ている朔と桂は、麻衣那と上総(かずさ)を別室へ移すよう告げる。  桂「正直、酷い話だ。年若いお嬢さん方に聴かせられる話ではない」  朔「宙広(そらた)も退出しとけ。未成年(こども)には刺激が強い話だ」  洸「素子(もとこ)女史は、聞く義務があるから、残ってもらう」  桂曰く『酷い話』を素子には義務で聞けと言う。  空海「退出は必要ない。【Ω】には教訓になる話だ」  最澄「確かに………ショックの大きな話ですが、【Ω】である以上は『明日は我が身』の話です」  内容を知っている【空海】と【最澄】は、聴くことを勧める。 【亜神】にここまで言われては、朔も桂も他に理由をつけて追い出すことができなくなった。洸は、宗典の子である素子と十鎖に聴かせられるなら外野はどうでもいい感じだ。  洸「話の内容は、或る1人の【Ω】が拉致られて遺体で発見されたの内容だ」  大したことなさげに言うが、凶悪な大事件である。  現在の改正された【法律】のひとつに【Ω種保護法】というものがある。『【稀少種】の【Ω種】は保護すべき存在で、是を傷つけ害すことを禁ずる。尚、この【法】に違反した者はいかなる【重罰】も受け入れるべし』項目は以上だ。【重罰】についての詳細が明かされていないので、ザックリとした内容のように見える。  國光「いや………って………その犯人、【重罪人】じゃないスか!」  國光(くにみつ)の言う通り、【Ω種殺害】は裁判では【極刑】判決になる。  貴輔「その【事件】に柳生宗典が関わっている………そういうことですね!法師殿」 【極刑】判決を受けるということは、是が非でもにしたいはずだ。【柳生】にはその手の【隠蔽工作】ができる。  伊角「【Ω種】は、行方不明者が出ただけでも世界規模で大捜索する大事です!いつの話ですか!法師殿」  いわゆる【犯罪史】に残る案件である。日本で言えば『帝◯事件』や『3億◯事件』に並ぶかそれ以上だ。どちらも犯人の特徴や遺留品などの証拠や情報があるのに【犯人逮捕】できていない。 【Ω種殺害事件】も柳生宗典が関わっている情報を得ていながら、逮捕に至っていない。  素子「父上に逮捕歴はない。隠蔽したのか!」  あの鬼畜オヤジが、と素子の父親に対する嫌悪感が垣間見えた。  洸「隠蔽したのは【被害者遺族】のだ」  洸たちの曾祖父に当たる人物である。現在はドイツ国の【軍人貴族】だということ以外知らない。  太郎坊「おー………懐かしい名を聞いた」  鞍馬天狗「影璽(えいじ)が日本を離れて、100年か?200年か?確か、影連(かげつら)影結(かげゆ)海外(むこう)で大学卒業したのを期に一時帰国したきりだな」  太郎坊「あの頃の影連と影結は、15才だったが………こんなデカい孫を持つ年齢になったんだな」  感慨深そうに懐かしむ【太郎坊】と【鞍馬天狗】は、若かりし頃の祖父を知り曾孫の自分たちより曾祖父を知っているようだ。  鞍馬天狗「浸るのは、ここまでだ。確かに、あの【事件】は影璽が【軍人貴族】のを使って【隠蔽】どころか、【消去】しやがった………」  太郎坊「俺たち【古族】に【人間】の気持ちなんざ理解できねえが、さすがにそれは無いだろとアレには引いた………」 【古族】目線からも洸たちの曾祖父の行為は、あり得ないことに見えていた。  玲鵺「少し待て!1つ質問したい。【陵家】に【Ω】がいたのか?」  そんな話は聞いたことがない玲鵺は、戸惑っている。  洸「えー………そこから言わないとダメかよ………玲鵺、ここは空気読んで【陵家】に【Ω】がいた前提で話聴く所だろ」  つまり、洸は答える気がない。  朔「玲鵺、空気読めとは言わないが………話を聞いていたらその疑問は解決する」  朔も解答拒否だ。  桂「自分が生まれる前の話には答えられないな」 【太一真人(たいいつしんじん)】を【生命】の起点とする桂はこの中では最も長い1万年近い【人生】を送っているが、それは複数の【回生】(記憶は据え置き肉体を変える)と【引き継ぎ期間】(200〜300年の活動停止)を経た総合の数字に過ぎない。この【事件】の時は【引き継ぎ期間中】で一切関わりがなかった。  鞍馬天狗「俺は影璽があいつの使える権力を全て行使してあの【事件】を曾孫が知ってることのほうが気になる」 【鞍馬天狗】と【太郎坊】の意見は一致している。口には出さないが、【太郎坊】は頷いて見せた。  洸「今から遡ること約100年前に陵影璽の三男・御影(みかげ)の【遺体】が【上海】でされた。死因は【凍死】。季節は【冬】。発見場所は【川】だ」  冬に川へ人間を遺棄して行くのをどう思う、と洸は全て見ていたように言う。  鞍馬天狗「なるほど………か。道理で御影にはずだ」  太郎坊「まさかだったとは………だが、【回生】するにはな」 【鞍馬天狗】は初見でと思ったが、血縁者なのでそういうものだと判断して疑問を頭の片隅に追いやっていた。 【太郎坊】に至っては【相模坊】と勘違いしていたので言わずもがな。しかし、洸が陵御影の次の【回生】の【宿体】──────────【回生】や【換生(かんしょう)】のように記憶据え置きで【体】だけを変える【転生術】の場合の【肉体】のこと──────────になるにはと言及する。  洸「記憶の【引き継ぎ】に要する時間は200〜300年必要だ。だが、それを待って【回生】した時、御影を拉致監禁して散々【輪姦】した挙げ句【凍死】させた極悪クソ野郎共は、この世を去った後だな」  洸がスラスラと流れるように言った内容は、十代の少女たちには耐え難いものだった。2人とも顔面蒼白になっている。  洸「俺は【α】だが、御影は【Ω】だった。孕まされて赤児(ガキ)も出産した。そのガキは、【伊賀藤林流】の【頭領一族】だ。そして、【前世】は【霞童子(かすみどうじ)】」  洸が【前世】で出産経験していたことも驚きだが、【霞童子】の名に朔が過剰反応した。宙広(そらた)も事情を聞いて知っているようだ。驚いた表情をしている。  朔「【転生】していたのか………」  桂「これ、めちゃくちゃヤバい話だぞ。【伊賀藤林流】の【頭領一族】と言えば、代々【内閣官房長官】を務める【一家】じゃねえか」  柳生宗典を吊るす話のはずが、とんでもない大物に飛び火した。  國光「確か………先代の【官房長官】の末の息子だけは、母親が違いますよ」 【水戸家】は【政治】の中枢にあるので、この手の情報に精通している。  朔「なら、その末の息子が」  誰ともなく朔は呟く。  洸「会いたいのか?【前世(闇嶽之王(くらみたけのみこと))】のだろ」 【闇嶽之王】は【陸の民の王之姉毘売】と婚姻してひとり息子を成している。その名を【霞童子】という【鬼神】の【毘売】の【血】を濃く受け継いだのか、外見は【鬼神童子】の姿をしていた。  朔「会いたいというより、『身柄確保』しておくべきだな。【霞童子(あれ)】は【鬼陸(きくが)】の【器】になれる存在だ」 【前世】では【源頼光】と【四天王】によって討伐されている。  朔「【鬼切丸】で斬られたせいで、今は【妖力】が低下しているのかもしれないな………【転生】できると思ってなかった」 【気配】を感じなかったので、今の今までまったく気にも留めていなかった。【鬼必殺】に特化した【鬼切丸】は『来世の望みも断つ』と【鬼】たちにとっては脅威なのだ。  玲鵺「朔センパイ、今さらっと重大なこと言ったな」  太郎坊「おい!【鬼陸之王(きくがのみこと)】の【器】になれるって、どういうことだ!」  鞍馬天狗「初耳だぞ!【器】があったら、下手すりゃ即復活じゃねえか!」 【鬼陸之王】は、かつては【鬼神の王】だった。しかし、【魔堕ち】して【妖主・鬼陸之王】となった時に、真っ先に【鬼神狩り】を決行した。故に【鬼神族】は、この裏切り行為を決して許すことはない。  律鹿「君たち、動揺し過ぎだ。他人(ひと)の話を聞いていたかい?………朔様は、【妖力】が低下しているかもしれないと言っていた。そして、【鬼切丸】で腕を斬られた先祖がいる【鬼】がここにいるだろう?」  律鹿(りっか)は玲鵺に視線を向ける。  玲鵺の先祖である【茨木童子】は、【頼光四天王】の【渡辺綱】に片腕を斬り飛ばされた。【茨木童子】の腕を斬り飛ばした【太刀】の名は【鬼切丸】だ。 【茨木童子】は斬り合って負けたのだったな、と朱貍(しゅり)はバツが悪そうな表情で呟いている。彼の先祖の【酒呑童子】は、【神便鬼毒酒(しんべんきどくしゅ)】で【泥酔】の【状態異常】にされてアジト諸共制圧された。簡単に言ってしまえば、『酔っ払って勝負にならなかった』である。 【太郎坊】はドンマイ、と朱貍の肩を叩く。当時、そこには彼の先祖の【初代・愛宕太郎坊(あたごのたろうぼう)】もいた。  玲鵺「確かに………【妖力】は落ちていた………だろうな」  千年以上前のことなので、玲鵺には影響がない。しかし、自分の親にその影響らしい兆しがあった。  玲鵺「俺の母上は【花嫁】ではない。【キョンシー族】の【異種古族】だ………懐妊は絶望的だったが、俺が生まれた。これは、おそらく………父上のほうに【鬼切丸】の【毒】が残留していて、そのお陰なのだろうな」 【古族】同士の【婚姻】は珍しくない。むしろ主流だ。【花嫁】【花婿】が見つかるほうが【奇跡】なのだ。【古族】の【婚姻】は、【同族間】と決まりがある。これは、【異種族】だと【妖力】の『勝ち負け』が出るからである。皮肉にも『鬼の泣き所』の【鬼切丸】で弱体化していたことが『【妖力】の反発』を防いで【中和】できたと考えられる。  玲鵺の両親は大恋愛の末に反対を押し切って【駆け落ち結婚】した。一度、【茨木童子の城】を追放されているのだ。帰還が許されたのは、玲鵺が生まれたからだ。懐妊が絶望的な【異種族婚】で生まれた子どもは、【鬼神】と【キョンシー】の【混血】。【神通力】を使う【鬼神】の強力な【妖力】と【不死身】の【キョンシー】の特性持ち。【ハイブリッド】な【鬼神童子】(【上位の鬼】)は【鬼神族】を永久に繁栄させると、呼び戻された。第三者から見ると身勝手な理屈だ。更に玲鵺は【花嫁】を見つけることができて、その【花嫁】は【神女覚醒】を果たした。  朔「弱体化していることは間違いない。それに、【器】になるには色々と揃える必要があるから、身柄だけでも押さえておけば対処は可能だ」  朔は、【鬼陸之王】は現在【体の部位】を外側だけでなく【内臓】までバラバラにされて、分散していると言う。復活させるには、このバラバラになった【部位】を全て揃えなければならない。  朔「まあ………それは不可能に等しい。俺が【鬼陸】の【左腕】をしているからな」  そう言って、朔は自身の左腕をブチッと。 【人間】の片腕が取れた光景に麻衣那は、両手で顔を覆う。上総も驚いて、悲鳴が漏れそうになったので両手で口元を覆っていた。  朔「【義手】だ。先代の【剣帝】を倒した時に【戦利品】に奪い取った」  本人が口にしないので忘れられがちだが、朔は現【剣帝】である。それも先の【剣帝】に挑み勝って奪い取っているので、相当な実力者だ。  先代の【剣帝】の肘から下の【義手】が【鬼陸之王】のものだと気づいたことが、【先代剣帝】に挑むきっかけになった。動機は左腕の【義手】だ。倒して手に入れようと【脳筋発想】──────────脳筋なので説得して手離してもらう案はない──────────で朔は打倒【先代剣帝】を果たした。  宙広「【王様】の左腕が【義手】なのは、その時の名誉の負傷!カッコいい!」  一生付いて行きたそうな宙広に朔は、名誉の負傷を否定した。  朔「いや………奪ったものの、その辺に【封印】したらまた盗まれて、取り返すのも面倒だからな………自分の左腕を斬り落として【鬼陸】の左腕を【義手】にした」  斬り落としたのは朔自身だが、【義手】の装着の【手術】は暁魚(あきお)にしてもらったらしい。朔は暁魚は【無免許医(モグリ)】だが、肩書だけ立派なヤブ医者と比較にならない腕の良い【闇医者】だと評価した。  朔の【義手】である以上、【鬼陸之王】の【体パーツ】集めで必ず、『朔との戦闘で倒さなければならない』項目を条件に入れる為だけにしたことだと朔は、後悔していないと言い切っているが左利きの朔が利き腕を自ら斬り落とす行為は、やや狂気じみていることは否めない。  dba50a25-9298-44f3-b66e-4481ec352a0a  雪華葬挿のイメージイラストです。  アイビスペイントで素材をコラージュした作品なので、クオリティー面はご容赦ください。               
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