第漆章   ニライカナイ①〜御影の最期と影千代の失敗〜

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第漆章   ニライカナイ①〜御影の最期と影千代の失敗〜

 遙の【回転回し蹴り】を、【竜宮城の王】は片ほうの手で足首を掴んで防いだ。  足首を持ち上げて長身の遙を逆さ吊り状態にしている【竜宮城の王】は、更に長身だ。190cmは超えるだろう。  竜宮城の王「勝負あったな。手も足も出せないだろう?」  飄々とした笑みを向ける。人好きのするその爽やかな笑顔に向けて、遙は掴まれていないほうの足の靴を飛ばした。  マンガだとベシッと効果音が描かれそうな顔面クリティカルヒットをする。  遙は素足に靴を履くタイプ──────────遙曰く【体術】主体の者の常識──────────のようで、素足の爪先で【竜宮城の王】の頸動脈を狙った斬撃のような殺傷性の高い蹴りを繰り出す。  竜宮城の王「!………待て!」  背筋がゾッとする殺気を感じて、【竜宮城の王】は掴んでいた遙の左足首から手を離し、自身の首を上に向けて逸らす。  ピシャッと少量の鮮血が飛び散る。  遙と【竜宮城の王】の対決を観戦していた者たちがざわめく。 【竜宮城】の住人たちは、王が血を流すのを見たのは数十年ぶりではないかと王に血を流させた遙を注視する。  足首を掴んでいた手が離れたことで支えを失ったが、遙は猫のようにクルッと回転して片膝着いた低姿勢の着地をする。体幹バランスが完璧なので全くブレない。  遙は、トコトコと自ら脱ぎ飛ばした靴の落下した所まで歩いて行き、靴に足を入れて回収する。  遙「第2Rだ」  遙は、気持ちを切り替えて再戦に臨む意気込みだが、【竜宮城の王】は試合終了と言った。  第1Rを準備運動に考えていた遙は、不完全燃焼な対決に不満しかない。  遙「王なら真面目に闘え!」  竜宮城の王「いや………俺は、結構ガチだったんだけど………」  最後のあの裸足の爪先蹴りなんて【生命(いのち)】の危機だった、とあれを避け損ねた時の惨事を想像すると、【竜宮城の王】は肝が冷える。  遙「次は命中させる」  さあ始めよう、と遙はヤル気満々だ。  竜宮城の王「他人の話、聞いてるかい?試合終了だよ」  できることなら、こんなモンスターのような戦闘 中毒(バトルジャンキー)とは二度と闘いたくない。  棗「………もう少しだけ、我が愚息の相手をしてやってくれないか」  見物していて、最後の一撃は確かに当たればヤバかったが見切れていたので大丈夫だと棗は考えている。本格的にヤバいと思ったら割って入って止めるつもりだ。  竜宮城の王「のお願いでも、聞けるものと聞けないものがある!今回は聞けないものだ」  最後の一撃は完璧に避けたつもりだった。実際、回避は完璧だった。ヒットしたのは攻撃で起こった【風圧】だ。それが自身の顎から頬にかけて一文字の傷を作った。  遙「貴様に勝たなければ、俺の【密偵】が助けられない!絶対に倒して取り返す!」  遙は、【バトル】に夢中になっていただけではない。勝てば【仲間】を返してやるという賭けをしているのだ。  遙は、【海底異域・ニライカナイ】への【道】とされる【聖域】のような『清浄な地域』を探していた。 【沖縄】(現在は【琉球王国】とも呼ばれる)出身のカンナに【ニライカナイ】の【道標(みちしるべ)】を知っているか訊ねると、【ニライカナ】というのは【沖縄】に伝わる【異界の地】を意味する言葉だが【鹿児島県】の離島【沖永良部島】の【桃太郎伝説】が【ニライカナイ】と関わりのある話になっていることをカンナから聞かされ、【桃太郎】の名前が出て来たことから【沖永良部島】へ行き先を定めた。  そして、見つけた『清浄な地域』で遙は1時間【チャクラ】を放出し続けるという行動を3日間行った。3日目に【竜宮城の王】から迎えを寄越されたから3日間で済んだ。 【隠密】のような連中に見張られていただけだったが、3日目に【竜宮城の王】が使いを寄越して来た。  巨大なハブのような【メカ】は『タイム◯カン』の悪役メカのようだったが、操縦席に乗っていたのは母・(なつめ)と伯父・(りょう)百合子(りりこ)夫妻だった。彼らが使いであった。  彼らの乗って来た【メカ】は、遙が装甲を破壊して剥き出しになってしまったので、海底ヘ潜ることができなくなり、遙たちが乗って来た【神機化】(乗り物形態)させた【玄武】で向かうことになった。【玄武】は【潜水艦タイプ】に【神機化】させていたので、余裕で海底に潜れる。【亀】の形は、これから向かう【竜宮城】には【浦島太郎】の気分だと非常に好評だった。 【竜宮城】ヘ到着するまでの時間、棗と燎からこれから会う【竜宮城の王】という人物は、実は影連(かげつら)と第一夫人の間の子で棗や燎たちの異母兄に当たる人物だと聞かされた。  影連の第一夫人は若くして鬼籍に入ったので、第二夫人の甲が我が子同然に育てたこともあり異母兄弟でも仲が良かったらしい。しかし、兄は成人後に家を飛び出した。母親の仇を探すと置き手紙を残し、自分のことは最初からいないものとして記録から消してほしい旨などが綴られていた。棗と燎は小学生くらいだったので覚えているが、環は赤児だったので異母兄のこと自体知らないかもしれない。  遙は、【陵影千代】の時の記憶に残っている第一夫人のことを思い出して「鬼畜外道クソ野郎の神無(かむな)は、必ず【マリア天比売(てんひめ)】を奪いに現れる」と言って、その為にに住み着いたのかと訊いた。  棗「お前はどこまで影千代様の記憶を持っている?」  息子の1つ前の【前世】が影千代であったことは既に知っている。  遙「一番近い【前世】のせいか、影千代の執念なのか、影千代が生きた17年間のことは全て記憶にある。あとなぜか御影が拉致されて凍死遺体で祖父様たちと再会するまでの出来事が脳内に記録されている」  御影の拉致は影千代の死後から約十年後のことなので、遙の脳内に記録として残っていることは違和感のあることだが、影千代と御影は双子なので普通ではあり得ないことがあっても不思議ではない。  燎「御影様か………(あきら)がそうなんだよな」  御影の最期は父・影連(かげつら)から燎たちも聞いている。 【凍死】というのは【遺体】が凍った状態で、形状維持されて綺麗な姿をイメージするが、それは幻想である。リアルは醜い。凍った部分が解ける時、『肉ごとこそげ落ちる』のだ。  御影の凍死遺体は、凍っていた時は彫刻品のように美しかった。しかし、時間経過で凍った部分が解け始めた時、皮膚やその下の肉まで削ぎ落ちていった。ただ腐敗臭がしないだけで、見た目は腐乱した遺体とほとんど変わらない。  燎は、影千代も御影も生まれた時は故人で話でしか聞いたことがないが、息子の洸の1つ前の【前世】と知り、その洸は御影の復讐をしようとしていることも知っている。もう大人だしどうこう言う気は燎にはない。  遙「ここに来る前に、【邪馬台国】や【長崎】に寄り道した。【長崎】で【龍造寺】の先代のジジイに目通りして来たが………あのジジイ、認知症で昔のを忘れてやがった」  認知症ってスゴいなひとりの人間の過去の大罪をと、遙は皮肉っぽく言う。毒舌でも吐いていないとやってられない心境だ。  棗「何の落ち度もない人間を、己の醜い欲望の為に痛めつけて挙げ句の果てに殺害しているのだぞ!認知症だから覚えてませんで済むわけないだろ!」  燎「洸には、聞かせられない言葉だな」  棗は、本当に認知症かアヤシイものだな、と虚偽を疑っている。  燎は、洸は【僧侶】なので罪を悔いて懺悔させた上で復讐するスタイルに拘っているので、記憶にないのは困ったものだと言う。  棗は、それは面倒だな、と言った。【隠密機動】で【暗殺】を本職にして来た棗だ。『殺害スタイル』への拘りには理解がある。  遙「【龍造寺】のジジイは【鍋島】の先代が。それからもな」  つまり、【鍋島道場】の先代・道場主 が認知症の【龍造寺家】先代当主を殺害、返す刀で自刃。そして息が続いている間に、自分の孫に【龍造寺家】当主を処分しろと言い残した。【龍造寺家】には【国王】へ輿入れが決まっている娘(先代の孫)がいるが、娘に関しては一言もなかった。そこまで息が続かなかったか、孫と駆け落ちを計画するほどの恋仲だったから見逃そうとしたか意図はわからないが、【龍造寺家】は【鍋島家】の手で終わらせろと遺言が残された。  遙「【鍋島】の先代が当時のことを知っている範囲で話した。先代本人は、【龍造寺】のジジイが【上海】へ渡った頃に【ボディガード】として同行していたそうだ。そして、【上海】で宗典と他にもがいたそうだが、夜の【ボディガード】は宗典がするから必要ないと言われたから夜な夜な出かけていたことは把握しているが、行き先までは知らなかったそうだ」  そして、ある日【血】の匂いをさせて戻ったのでその日の夜に後を尾行(つ)けて集団で【Ω種】の青年を暴行している光景を目撃した。 【Ω種保護法】により全員処罰対象になるのは間違いないが、非人道的行為をみて見ぬふりできず現場に踏み込んで暴行行為をやめさせた。宗典がその場にいたので【鍋島】の【剣士】だから相手にするなと、その場は解散してこの時に御影は現地の警察にだったらしい。  百合子「現地の警察もってことになるわね」  その3日後に御影は冬の川で全裸死体で発見された。これで無関係なはずがない。  棗「つまり、【鍋島】の先代は御影様の【殺害】には自身も関与していると………そういうことなんだな」 【鍋島】の【剣士】は揃いも揃って、律儀で堅い奴ばかりだ。  燎「悪事をみて見ぬふりできず、誠意ある行動をした人物が長い間苦しみ続け、悪事を働いた当の本人は認知症で忘れてしまったとは………理不尽な」  遙「手を貸していたと思しき現地警察関係者は、『【(ロン)家】の情報網』で探して貰ったがしかもだ」  させて潜り込ませたのだろうな、と遙は言った。 【鍋島】が呼んだのは、の警官だっただろう。日本と上海では勝手が変わるが、最初に保護した警官が最後まで保護管理するわけではないのだ。  遙「洸から聞いた御影が警察署から死亡するまでの出来事を聞いて、推測できたことは影連祖父様と影結義祖父様にがバレたらマズいと思ったのだろうな」   まず、保護された直後に御影は外へ連れ出された。そして、またたちの元へ連れて来られたのだ。御影は意識が朦朧としていたので、の姿を見ても何の感情もなかった。躊躇なく御影の首に圧迫感を与える力が加えられ御影の意識はそこで途切れた。しかし、御影は【北海黒竜王】の【転生戦士】なので、【霊体】となってその後全て。  燎「確かに………【転生戦士】は【記憶の処理】に年月をかける必要はあるが【輪廻の輪】に入るのはではないな」  燎自身も【海の民の王・大海之王】の【転生戦士】なので、事情はよくわかっている。  百合子「『復讐する』こと前提で、全て記憶に焼き付けて『次に繋ぐ気』だったのね」  百合子(りりこ)は、御影の凄まじい憎悪と執念を感じた。 【精神体】となった御影は、『絞殺』された後に衣服を剥ぎ取られて全裸にされた自身の【遺体】を見下ろしていた。死後に衣服を剥ぎ取る理由は幾つかある。一番の理由は身元割れしない為だ。他は、猟奇的になるが【遺体】を『解体する』目的。『解体』して『土に埋める』後は、白骨化を待つだけだ。埋める時に部位を分散して埋めれば身元特定は困難になる。後は、『おかしな性癖』がある者がをする目的だ。  連中は、【外道】だったが【変態】ではなかった。3つ目は行われなかった。  そして全裸にしたのは一番オーソドックスな身元隠しが目的だった。更に【遺体】を大きな水槽の中へ落とし、全身水浸しにした後、部屋の空調を『低温で冷却』した。【外道】たちは、退室して『御影の遺体』だけ残された。  遙「この話を聞いた時、俺はなぜ『解体(バラ)さなかった』のかと、【鬼畜外道クソ野郎】どもはアホを究極まで極めたと思ったが、ここには【女神・エレオノーラ】のが働いていたかもしれない」 【外道】の中には柳生宗典がいた。宗典(あの男)が関わったにしては『遺体の始末』が杜撰だと、遙は考える。  本人が口にしているように遙は、自分なら『解体』しか選ばない。しかも白骨化には【蛆虫】を使って『短期白骨化』させる。土に埋めて時間経過を待つなど、ここでそんな『ギャンブル精神』は自滅フラグだ。  遙「御影は【女神】からの【加護】を受けていたのだろう?」  その結果、【α種】から【Ω種】へ【変異】したのだが。影千代は、このせいで【女神・エレオノーラ】には好意的ではない感情を持っている。やはりクソ【女神】は他人の足をしない、と遙は心の中でディスる。  棗「御影様の体を『解体』させたくなかった………ということか?しかし『凍死』が解凍されて悲惨な状態になったぞ」  いわゆる本末転倒だ。  百合子「【女神】様は、元々どこかの『惑星』の【神様】だったのでしょう?『物理現象』を知らなかったのかも」  燎「あり得るな………『凍死』は『現状維持される』と間違った知識を持っている」 【女神】が元々いた『惑星』では、生命反応がないモノを凍らせると解けないというのが常識だったかもしれない。  遙「勉強不足だな。そもそも、御影殺害の1番のは【女神・エレオノーラ】だと俺は思っている」 【女神の加護】をメガ盛りしたから【α種】が【Ω種】に【変異】するが起こったのだ。  遙「最終的に御影にトドメを刺したのが、あの【鬼畜外道クソ野郎】どもであって、【α→Ω】のはマッドな【科学者】どもの格好の『研究対象』だった」  御影は【科学者】たちからも『実験体』として狙われていたらしい。影千代の記憶から遙はそれを知った。  遙「そして、影千代もまた、だ」  棗「バカな!影千代様は御影様が亡くなる10年ほど前に戦死しているのだぞ」  燎「仮に【精神体】だけで留まっていたとしても、影千代様は【ツガイ】だったのだろう?御影様を害するはずがない」  棗と燎は、真っ向から否定する。百合子(りりこ)は少し考え込んで、なぜ影千代が戦犯に含まれるかがわかった。  百合子「【Ω】って『【ツガイ】の【α】』にと、『無気力』『自暴自棄』『自殺癖』の症状が現れるわね。影千代様は戦死したからワケではないけど、『【ツガイ】の【α】』にに陥ったのかもしれないわね」  御影には、影連(かげつら)影結(かげゆ)の頼りになる兄たちがいたので『【Ω】特有の鬱状態』は、そう長く引きずらなかったはずだ。  遙「そうだ。【ツガイ】になった以上、影千代の【生命】はアイツ1人だけのモノではなかった。『【生命】と引き換えの【封印術】』を行うなら、御影をで臨むべきだった」  影千代は、遙の1つ前の【前世】なのだが、こうして影千代のダメ出しをする辺り相当自分自身に厳しい。  御影の最期に対する影千代の意見を遙から聞いている内に、目的地に到着した。  そして、【竜宮城の王】と名乗る男が直々に出迎え、そこで【鼠】を捕らえたが心当たりは、という質問に遙が【鼠】の特徴を訊ね【竜宮城の王】は闘って勝てば返すという話になった。 ◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆  本編には書いてませんが、【転生戦士】は【前世】の自分自身の【記憶】を【第三者目線】で見ている感じです。  本編で遙が【前世】の影千代に対して、【前世(過去)】を反省せず【第三者立場】でダメ出ししていたのはこのせいです。 c69c110c-81fe-434d-ac03-e9c9a8d906ce 左:御影/右:影千代    
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