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第漆章 ニライカナイ②海の民の王と龍宮
【竜宮城の王】の配下たちが拘束衣を着せた2人の若者を連れて来た。
それを目にして、遙がブチキレた。
拘束衣の若者を連れて来た6人をスライディングからのローキック、振り上げた脚を戻す動作でミドルキック、地に伏せた状態から仰臥体勢に戻しついで両脚で地を蹴り勢いでタックルの引き倒し、腕立て倒立で左右両脚のハイキックで2人蹴り飛ばし、高い位置の脚を戻しついでに勢いつけて立ち上がり最後の1人を正拳突きで沈めた。この間にかかった時間は5秒とかかっていない。
いきなりの遙の凶行に、周囲は警戒を高めた。
棗は、ああやっちゃったという感じで額を押さえる。
燎は、拘束衣の若者たちを見て、これはキレても仕方ない、と呟く。
秒で配下を6人無力化された【竜宮城の王】は、唖然として「遙とは二度と闘わない」と呟いている。
?「【ウラシマ】、とりあえず彼らの拘束衣を解くのが先!」
【ウラシマ】というのは【竜宮城の王】の名のようだ。
ウラシマ「兄者!なぜ拘束衣を着せられているんだ?」
捕虜だが丁重に扱うよう言い含めていた。
ウラシマの兄「仕方ないよ。彼ら、【ヴァンウルフ】だ。拘束衣を着せて拘束しないと【神狼(フェンリル)】に【変身(ゾアントロピー)】されでもしたら、半壊は免れないよ」
【ヴァンウルフ】とは【ヴァンパイア公(ロード)】と【神狼(フェンリル)】との【混血(ミックス)】だ。【混血】は立場が低いが、【ヴァンウルフ】は例外だ。【ヴァンパイア】では【公(ロード)】という【高位貴族】で【人狼(ワーウルフ)】では【王】だ。つまり別格である。
遙「そいつらは【純血種】ではない。そう簡単に【ゾアントロピー】しない」
【ヴァンウルフ】は、【混血】でも【魔力】は【真祖】や【純血種】と同じだ。しかし、遙が口にしたように【変身(ゾアントロピー)】に制限がかかっている。
ウラシマの兄「そうなんだ。ごめんね。知らなかったんだよ。【ヴァンウルフ】は【血】が薄くなっても【魔力】は【真祖】と同じだからね」
遙は、棗にあのドワーフも兄弟なのか、と訊く。【ウラシマ】が『兄者』と呼んでいたのをしっかり聞いていた。
【ウラシマ】が『兄』と呼んだ人物は、少年のような言葉遣いをする見た目も少年だが、遙は『【叡智】の【鑑定能力】』で『種族:超越ドワーフ』と視えた。【鑑定】には本名が見えるものだが、彼の名前は『文字化け』している。本来なら【鑑定能力者】より相手の【チャクラ】が高く【隠蔽】できるということだが、遙は本名以外は視えているので、この見た目少年ドワーフは本名だけをひた隠ししている。
棗「多分、長男………だと思う。子どもの頃の写真でしか顔を知らんから、自身がない」
燎「俺も上3人は、子どもの頃の写真しか知らない」
親子ほど年齢が離れているらしいので、棗と燎が生まれた頃には既に独り立ちして家を出た後だった。
ウラシマの兄「そこの格闘少年が影千代様の生まれ変わり………おかしな言い方だけど、生き写しだ」
確かに生まれ変わりに生き写しという言い方は、あまり聞かない。
遙「少年………は、ないわ」
起点が【古代中国殷周時代】なので、【転生戦士】としての【魂魄年齢】は七千才位だ。遙の年齢は20代後半なので、【魂魄年齢】【宿体年齢】(回生で生まれ変わった体)共に『少年』ではない。
ウラシマの兄「………20才を少しばかり過ぎた年齢でしょ?」
20代前半なんて、まだまだ少年だよと言うが年齢を読み間違えている。
棗「一の兄上、遙は………年齢より下に見えるが、30才目前のアラサーだ」
上から何番目の兄に当たるかわからないが、【ウラシマ】より上の兄なので、とりあえず『一の兄』と呼んでおくことにした。
ウラシマの兄「え………嘘!本気で言ってるの?」
冗談と思っているようだ。
このやりとりの間に【ヴァンウルフ】の若者2人は、拘束衣を取り去られ自由の身になっていた。
麟「うえー………拘束のせいで腕と脚がなまって筋肉痛」
トホホな口調で呟きながら、麟は両腕をブラブラ振り、片足ずつ地面に爪先を軸にしてグルグルと回して膝から下をほぐしている。
漆黒の髪は東洋系だが、蒼い瞳にアングロサクソン系の肌色は明らかに欧州系との【混血】だ。見た目はミステリアスな綺麗系男子である。
戒「仕方ないだろ………拘束してもらわないと俺たちの貞操がヤバかった………」
戒は疲労感漂う姿をしている。
金髪碧眼の完全にアングロサクソン系だ。エキゾチックな雰囲気のハンサムな若者である。
遙「おい………ドワーフと言ってること違うぞ。【ヴァンウルフ】のくだり、どこ行った!」
耳ざとく『貞操がヤバい』を聞き逃さず、【ヴァンウルフ】無関係じゃないかと指摘する。
ウラシマの兄「バレるの早かったね………実は、彼らがイケメンだからウチの女の子たちが夜這いしてね………」
遙「ここにも『肉食女獣』がいるのか………」
遙は、戒と麟に同情の視線を向ける。お前たち大変だったなと労っていることが2人に伝わる。
どうやら【ウラシマの兄】は、『夜這いの件』を秘密にしておきたくて【ヴァンウルフ】だからを理由にしたらしい。
戒と麟は、筋肉痛は面倒だが拘束衣のおかげで貞操が守れたので、どちらかと言えば感謝している。
遙「拘束衣着せられて感謝………ドMの目覚め………」
遙は、2人が別世界を開拓した疑惑を持ち始めた。
戒「ダディの前でヤメて!ホントにヤバかったんだ!」
夜這いに来た女の子たちは1人、2人程度ではなく1度に10人前後鉢合わせして、そこで『バトルロワイヤルが勃発』したそうだ。
麟「ノリが【龍家】と同じ!」
麟は【龍家】の親戚筋なので、『バトルで順番を決める』気質が同じだと身震いした。
そこまで聞いて棗は、【ウラシマの兄】に詰め寄った。
棗「一の兄上………私の息子にナニがあったか詳しく!」
遙「あ………棗パパ激オコ」
棗「当たり前だ。亡き妻に顔向けできないコト、あったのか?」
戒が『ダディ』と呼んだのは、棗のことである。棗は、遙たちの父親と離婚成立後に『恋人だった女』と再婚している。その女との間に一卵性双生児が生まれた。それが戒と聖である。【α種】の棗には、男性の生殖機能と女性の出産機能の両方が備わっている【ハイブリッド・ハイスペック】な【生命体】だった。
棗は【古代中国神話】の【竜王・敖祥】の【転生戦士】なので、【胤付け】も【出産】もお手の物だそうだ。彼女の【ハイブリッド・ハイスペック】は、【竜種】の【特性】を【回生の術】で引き継いでいるからだが、【子づくり】は【伴侶】を必要とするので1人で何でもできるわけではない。
実は、棗が【竜宮城】で歓迎されているのは【竜王】の【転生戦士】というのが大きい。【中国神話時代】の【竜王】は一万年以上の歴史がある。【転生戦士】で【人間】になっているが【回生の術】で【魂魄】【竜王の神通力】はそのまま引き継いでいる。【竜宮城】は更に【神秘の領域】となる。
棗が急激に【チャクラ】を上昇させた。
これは、『夜這いの件』を白黒はっきりさせなければヤバい。白黒はっきりさせても場合によってはヤバい。
燎「【鬼道】が得意な者は、俺に【チャクラ】を貸してくれ!【結界】を張って何とか持ちこたえさせる!」
【海の民の王・大海之王】の【転生戦士】である燎の言葉に、大半の者が従う。おそらく【鬼道】が得意な者だろう。結構多い。
【南国】で【龍宮】と呼ばれる【ニライカナイ】は、【大海之王】が『終の棲家』とした『終焉の地』である。現在、【ウラシマ】が【竜宮城の王】となっているが、彼が【王】なら【真王】と呼ぶべき【始まりの王】が【大海之王】である。
燎が【竜宮城】へ足を踏み入れた瞬間、『真王帰還』とドン引きするぐらい大歓迎され、スーパーでスペシャルなVIP扱いされている。
遙「とりあえず………戒を『鞘に納めたメス豚』、整列!ついでに麟を『鞘に納めたメス豚』もな」
酷い言い方だが、遙にとって自分の身内を丁重に扱わない者は、畜生扱いされる。
遙の言い方が酷過ぎて、怒気を孕んだ空気がうっすら漂うが、【ウラシマの兄】がたしなめる。
ウラシマの兄「怒っちゃダメだよ。キミたちの娘が節操の無いことしたんだからね」
竜宮城の民「『一寸法師様』!娘を家畜のような言い方をされては………」
【ウラシマの兄】は【一寸法師】と名乗っているようだ。なんとなく予想はついていたが【御伽噺】のヒーローの名を使うのは何か意味があるのだろうか。
一寸法師「言い訳は聞かない!棗の息子は、僕の甥だよ。充分過ぎる無礼を働いているって理解できない?」
海底宮殿なので、元々ひんやりしているが今の【一寸法師】の言葉でマイナス3度は空気が冷えた。
遙「『一寸伯父さん』イケメン!あーでも、俺も言い過ぎたかな………『メス豚』はなかった。『ビッチ』に言い直すよ」
言い直しても、あまり変わらない気がする。
ウラシマ「恐ろしく口の悪いガキだな………」
呆れているが、こちらに非があるのであまり強く出られない。
一寸法師「正直に、自己申告しなさい。断っておくが、遙は【究極級美徳系スキル・叡智】を持っている。全てお見通しだよ」
それを聞いて、バタバタと膝と両手をついてうなだれる女子がざっくり数えて20人位いる。
遙「ここ………『女郎屋』?」
抉るような鋭さだ。しかし【ウラシマ】は一瞬、『女郎屋』をすれば儲かるのではと頭で算盤をはじいていた。
棗「私が【竜王公】としてここで【竜宮楼】という『女郎屋』を開く許可、出してやろうか?」
遙のギャグ(?)に乗って来たので少し棗は溜飲を下げたようだ。
一寸法師「捕らえた翌日には拘束衣を着けたから………一晩でたった2人でこの人数………」
【一寸法師】は『見た目は子ども、年齢はオトナ』のどこかで聞いたフレーズの成人男性である。男女のアレやコレやは、理解しているので、驚く他ない。恐るべし【ヴァンウルフ】と呟いているので、しっかりオトナの知識を持っているようだ。
遙「念のため、検査しといたほうがいいな………繁殖力は【人間】と同じだ」
故に、男女の関係にはかなり慎重だった。相手の女性が懐妊すれば、その子は【ヴァンウルフ】だ。【真祖】や【純血種】に近いほど【不妊】だが、【ヴァンウルフ】の【遺伝子】を持つ【人間】になるほど子ができやすい。
遙「しかし………こいつらは『萎える系の薬』を接種しているはずだが………」
遙の言う『萎える系の薬』は治験を行っていない非公式な薬──────────【亜人】の繁殖力を抑制する目的の薬──────────なのできちんと名を付けていない。薬の効能が通称になっている。
遙の疑問には、百合子が答えた。
百合子「『【オーク】の部位を原料とした薬』を使ったそうよ」
姿が見えなかったが、【竜宮城の民】に聴取を行っていたらしい。サンプルもらっちゃった、と件の薬をゲットしていた。
遙と棗は燎を見る。しばし思案して遙はいとこが増えるのかな、と呟く。棗は『高齢出産』になるから母(甲)にしっかりサポートしてもらえよ、と考えることは同じだった。
燎「はあ?………それより、棗は落ち着いたようだな」
棗が【チャクラ】の放出をやめているので、燎は【防御結界】を解除した。
百合子「棗センパイも遙くんも、想像力が豊かね。私は、もらったサンプルから『不妊治療ドリンク』作れないか試そうと思っているのよ」
『不妊治療薬』は高額だから庶民にはなかなか購入できない。しかし、質が落ちることは否めないがコスト激落ちで飲料水感覚で持続して飲み続けられるのを重視した『ドリンク』の開発に着手しようと考えていた。
百合子「原液が必要なのは、むしろ遙くんでしょ。都ちゃんと佳紫乃ちゃんと………ついでに胡蝶ちゃんも、若いんだからまだまだイケる!」
頑張れ、と百合子に試験管を3本押し付けられる遙の姿があった。
遙「これ………1回で1本飲みきり?」
え、お前飲むのかという顔で棗は遙を見る。
百合子「分けて飲めるけど………封を切ったらすぐ空にしたほうがいいわ。どうしても分けて飲みたいなら、【錠剤】に加工するのがオススメよ。梓が加工できるから、あの子にしてもらうといいわね」
でもボッタくられるからね、と百合子はさすが母親だ。娘のガメつさを熟知している。
遙「『錠剤』………売ったらいくらになるだろう………」
棗「自分で使わないのか?」
遙「交尾するのに【薬】を使うとか………相手に失礼だろ」
棗は、そうだねと脱力した返事を返す。
棗「お前、そういうのはちょっとぼかして言ってくれないか。お母さん、恥ずかしいよ」
遙に羞恥心が無いわけではないのだが、『犯罪行為』や『違法行為』に該当しない事に対しての気遣いが希薄だ。口にするのがちょっと恥ずかしい単語でも結構堂々と言う。
燎「待て!俺の可愛い娘に、そんな欲望渦巻く代物を作らせる気なのか!」
燎が待ったをかける。
遙「そんなことより、ここは【真王】として燎がビシッと締める所」
娘に関する話を『そんなこと』にされて燎は、ブーイングする。
百合子「燎、まず先に片付けるべきことをやりましょう」
棗センパイも【竜宮城の民】の皆さんも、引っ込みがつかない、と百合子はオチを付けてこの話は終了にしようと提案する。因みに【竜宮楼】はいいと思うと百合子は意外にも『女郎屋』営業に賛成だった。
燎「兄上たちは?………【ニライカナイ】は『神聖な場所』だ。そこを【欲(よく)】とか【望(ぼう)】とかホールとかいいのか?」
ホールって何だろう、と遙は素朴な疑問を持った。『場所』『会場』穴場、3つ目はなかなか小洒落ていると自画自賛していた。ただの『下ネタ』だが。
左:戒/右:麟
背景:塗り絵の完成品
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