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第漆章 ニライカナイ⑤清姫の柳生武藝帖
遙は、自分は【宿命】というものを信じていないが、この時だけは【宿命】というものを感じた気がした、と言った。もっとも後にも先にもこの時だけだった。
遙「【秀頼】は、【長崎】では【大野秀吉】と名乗った。【土井利勝】が【伊賀組】に命じて全国中を探っていたから【秀頼】を名乗るのは危険だった」
紛らわしいから【秀頼】のままで話すと言って、遙は【長崎】での『出会い話』をした。
遙「【秀頼】は【長崎】の街でひとりの女と知り合う。女は【市井の者】を装っていたが、【秀頼】には女が【武家】の生まれだと所作でわかったそうだ」
【高坂甚内】が【風魔】からの【指令】で【長崎】へ渡った。【高坂甚内】は【亜津沙衆】を名乗って簡単に【秀頼】と【真田】の内部へ入り込むことができた。ダブルフェイスはこんな時には便利だ。器量良しの【高坂甚内】は【秀頼】に『変な虫がつかないように』と【偽装夫婦】の女房役をした。
遙「【高坂甚内】からの報告でわかった女の素性は、【石田三成】の遺児【清姫】だった」
【石田三成】は【豊臣秀吉】に仕え、秀吉亡き後は【秀頼】に仕えた。【三成】は【関ヶ原の合戦】で敗走中に捕まり、【徳川家康】(影武者と入れ替わる前)に【刑場】で衆人の見ている前で酷い拷問をされ、最期は処刑された。【家康】は処刑後、【刑場】に首と胴を切り離した遺体を晒すという非道を行った。
ウラシマ「なるほど………正に宿命のような出会いだな」
【高坂甚内】の調べで【清姫】の供の女は【真田のくノ一】(亜津沙衆とは別のくノ一)だった。
遙「【清姫】は【大坂】では【秀頼】と面識がなかったが、供をしている【くノ一】は名を変えていても【秀頼】だとわかったようだ」
この【くノ一】からの情報で【清姫】は【秀頼】の素性を知り、『【丸山遊廓】での【酒宴】の招待状』の書状を【くノ一】に届けさせた。
【秀頼】の元へ届けられた書状は、【偽装夫婦】の女房役の【高坂甚内】が中を改めてから【秀頼】へ届けられた。
書状の中身を見た【高坂甚内】は、【五代目小太郎2人】に【伝書鳩】を飛ばす。
書状の内容は、『【丸山遊廓】で上は【花魁】下は【禿】まで【総揚げ】しての豪勢な【酒宴】の催しへ招待する』という『出会いを良縁と思い友好を結びましょう』という気持ちを表す意味合いの交友会である。
この時代での【花街】での【総揚げ宴会】は、接待としては最高のおもてなしになる。【丸山遊廓】で務めている者は、【教養】【作法】など【武家】【貴族】の子女と同等の教育を受けている。これは、【丸山】に限ったことではない。規模が大きい【花街】ほど【上位階級】の【客】が来るので、【遊廓】は【市井】育ちの女でも学ぶことができる場所だった。
【高坂甚内】の連絡を受けて、【五代目小太郎2人】、【鳶島甚内】、【庄司甚右衛門(庄司甚内)】、【甲斐姫】は【長崎】へやって来た。当時の【風魔】の【主力】たちである。
【秀頼】と【清姫】の会合の知らせを受けた【五代目小太郎疾風】は、【柳生宗矩】にこれを告げた。
【清姫】は【柳生武藝帖】を所持している。会合は、これを【秀頼】に開示するためではないかと【五代目小太郎疾風】は推測している旨を伝えた。
【宗矩】は、【秀頼】と【清姫】は年齢も同世代なので互いに気持ちが通じ合っただけなのでは、とただの色恋と断じた。
遙「【秀頼】と【清姫】が出会って、互いに『一目惚れ』だったら良かったんだがな………」
遙の口ぶりでは色恋沙汰ではなかったようだ。
勢都「父上の最初の振りでは、僕は【天草四郎】は【秀頼】と【清姫】の間の子だと思ったんだけど………」
勢都は、行儀よく挙手して発言した。
遙は、勢都をじっと見ている。そして、なぜかドヤ顔をした。
その表情で、棗は勢都が『やらかし』をしたことに気づいた。遙のドヤ顔は、『俺の息子がかしこ過ぎる』といった所だろう。勢都は、『オチ』を先に言ってしまったのだ。
遙「『オチ』が出た所で、次は【島原の乱】に介入させられた【漂泊の者】の話だな」
勢都の『フライング発言』で【天草四郎】は【秀頼】と【清姫】の子と判明したので、遙はこの話を終わりにしようとしている。
猪貍「ちょっと待て!………あ………」
子どもの勢都が挙手発言していたので大人の猪貍が不躾をするわけにはいかない。
猪貍「紫蘭の息子・猪貍です。………発言よろしいでしょうか?」
一寸法師「【酒呑童子の一族】の子だね」
【一寸法師】は『一寸法師と酒呑童子が談笑する絵』って激レアだね、と言いながら発言どうぞと勧める。
ありがとうございます、と言って猪貍は遙に向き直った。
猪貍「遙………それじゃあ【清姫】の【柳生武藝帖】が仕事してねえよ」
遙「ああ………そうだった。【柳生武藝帖】の中身を見て【秀頼】と【清姫】は『手を組んだ』んだった」
遙は、リラックスした状態の時はやや天然になる。【戦闘モード】の【ハイスペックモンスター】が常時続いているわけではない。
ウラシマ「それだと、色恋の要素ゼロだな」
遙「【清姫】は病で、そう長く生きられない状態だった」
【清姫】の所持する【柳生武藝帖】は、彼女の父【石田三成】の活動記録が記されていたが、そこには【徳川家康】と【影武者・徳川家康】の入れ替え計画も記されていた。そこは、【秀頼】が見ても特に問題なかった。むしろ、突然人が変わったように立派な【指導者】となった【家康】の謎が解けてスッキリした感じだった。気になるのは、【妖魔】なる『異形の物の怪』についての記述に【土井利勝】に注意せよと警告文が記されていた。『【土井利勝】は【徳川家康公】の【隠し子】』であると。
【大坂夏の陣】の時点での【土井利勝】は【老中】のひとりだった。【老中】の地位は高いが、数いる【老中】を束ねる【老中筆頭】や更に上の【大老】など上には上がまだ存在して、【土井利勝】の立場はただ地位があるだけの人に過ぎなかった。
しかし、【家康(影武者)】が亡くなり『【土井利勝】を【大老】とし【将軍】を助け、【将軍】は【大老】の助言をよく聞くように』といった遺言を残していたことから、【土井利勝】は【将軍】を影で操る【影将軍】の立場を確立していた。
更に【土井利勝】は【徳川家光】の乳母【春日局】と『利害関係の一致』から協定を結ぶ。
【春日局】は【家光】を【三代将軍】にしたい。【土井利勝】は『頭が残念な感じの【家光】』のほうが御しやすく理想的な【傀儡将軍』である。この2人の謀により【忠長】は失脚させられた。
こうして【家光】は【江戸幕府第三代将軍】に就任する。この年【清姫】は男児を出産した。『貞』と【市井】の名を付けた。【清姫】は産後、余命が少ないことが嘘のように快活になる。『女は出産すると【血】が変わる』と言われる俗説だろう。
【清姫】と【秀頼】は子ができたことで、【清姫】が亡くなる数年間は夫婦として過ごした。『市井で夫と子供と過ごした時が最大の幸福だ』と最期は幸せな表情で眠るように穏やかに息を引き取った。
【清姫】の所持していた【柳生武藝帖】は、子の【貞】の手に渡る。
遙「【土井利勝】は、捏造に近いやり方で【忠長】を失脚させている。この強引な行いが【妖魔】の【憑体】(憑依された状態のこと)となっていた【家康】(本物)のようだった」
【風魔】が【長崎】に集まったのは、【清姫】と【秀頼】が会合の後どう動くかの観察と【柳生宗矩】から【清姫】の【柳生武藝帖】を【藩主】【奉行所】などの【幕府関係者】の手に渡らないようにしてくれと頼まれていた。【土井利勝】は【家康】(本物)の【落胤】という事実が知れると、【江戸幕府】の【征夷大将軍】が【徳川家】の【世襲制】とすることを覆されるだろう。【家康(影武者)】が苦心して【世襲制】を取り付けたことが無駄になる。
【土井利勝】は自他共に認める【影将軍】である。【清姫】の【柳生武藝帖】が【幕府】の手に渡れば今後、表の【征夷大将軍】と【影将軍】の【将軍2人体制】が許容され、ゆくゆくは再び【国】を割る【戦】となるだろう。
【秀忠】は、『名君』ではなかったが『愚直なほど幕府に尽くした者』だった。【土井利勝】が【影将軍】だったが【秀忠】には自分の意思があり、【傀儡将軍】ではなかった。
【江戸】の【柳生宗矩】は、【大久保彦左衛門】と好を通じていた。『天下の御意見番・大久保彦左衛門』と呼ばれる人物である。
【大久保彦左衛門】は、誰もが言いにくいことを【将軍】相手にズバッと鋭い意見をする人物で、【大坂夏の陣】の後『就職難』に陥っている【素浪人】の【就職活動】の支援などを積極的に行っている。
その【大久保彦左衛門】が【素浪人】の1人から【忠長】が【駿府城】で【御前試合】を開催しようとしていて、その参加者を募っているという話を聞きつける。
【大久保彦左衛門】は、即座にこの話を【柳生宗矩】へ伝える。【大久保彦左衛門】は『次に問題を起こしたら【大納言様】は切腹だ』と【柳生宗矩】に、『武力行使』で開催を止めさせるので【柳生門下】の【剣士】を貸してくれと頼みに来た。【戦国時代】が人生の基盤になっている人物なので、【大久保彦左衛門】は『脳筋思考』だ。
当然という言い方はいかがなものかだが、【御前試合】を許可したのは【家光】だった。『改易された弟が不憫でお願いを聞いた』とのことだが、『バカ殿』なのだから誰かに相談してから許可を出せ、と【柳生宗矩】は脳内であらん限りの罵詈雑言を並べていた。
遙「しかし、この【御前試合】はいい時間稼ぎになった」
遙の言葉からわかるが、【御前試合】は開催された。
【御前試合】は【駿府城】へ参加者を集合させる前に、各地で参加者をふるいにかける【予選】を行う。この【予選】は勝敗を決めるものではなく【武術】の【技量】を測ることが目的なので、結構な時間をかける。【忠長】は【武術】を見る目が肥えているので【駿府城】での【本選】に出す者たちは『厳選された一流の武芸者』でなければならない。故に【予選】は無期限で終わりが見えない。
燎「最後の部分を聞いていると詐欺みたいな話だな」
燎は【御前試合詐欺】で【駿府城】の【本選】が行われるのか怪しい話だと言った。
遙「第1回目の【駿府城武術披露宴】という名の【御前試合】は開催された」
【本選】出場者も全員、【忠長】に取り立てられている。
【忠長】は改易されて失脚しているが、【徳川御三家】は聡明な【忠長】は『【将軍】のスペアカード』として使えると考えられていたので、定期的に結構な石高(金額)の収入があった。
遙「疾風たちも、宗矩からの依頼だった『【柳生武藝帖】の行方を見届ける』という【任務】はひとまず終わったから【相模】へ引き上げた」
この時の【北条家】は【狭山藩主】だが、【風魔】は【箱根山中】の拠点を動かしていない。【狭山】には【二曲輪猪助】と【六第目小太郎不知火】を『派遣常駐』させていた。
【長崎】には【高坂甚内】と【鳶島甚内】が残る。今度は【高坂甚内】と【鳶島甚内】が【偽装夫婦】をして【長崎】で【オランダ製品】を扱う【骨董屋】をしていた。地域特有の【商売】のほうが【情報収集】には向いているのだ。
遙「『嵐の前の静けさ』というのだろうな………しばらくは、大きな【事件】はなかった。当時の【北条家】の当主だった【北条氏信】が【官位】を賜ることになって【江戸】にやって来た。その護衛をする余裕があるくらいには、穏やかな月日だった」
【狭山藩】は【大阪】なので、【風魔】の拠点の【箱根】からは遠距離だが【江戸】となると【北条家当主】へ【風魔頭領】が挨拶しないわけにはいかず、【紅蓮】【疾風】は【江戸】へ赴いた。
遙「この時、【江戸】で【徳川光圀】がヤンチャな友達と【辻斬り騒ぎ】を起こしてな」
テレビドラマでは『越後のちりめん問屋の隠居』を名乗って【諸悪】を懲らしめるお爺ちゃんのイメージがあるが、少年時代の【徳川光圀】はいわゆる『不良少年』だった。
しかし【徳川光圀】は、ある【大物人物】と出会い改心した。
【北条氏信】の【官位】授与の際に【将軍】との謁見がある。【北条氏信】の元には『客人』が居り【北条氏信】は『客人』を謁見に同行させていた。その客人は【宮本武蔵】だった。
既に老齢の【宮本武蔵】は、【士官】することはなかったが【大坂夏の陣】の後、【堺】にいた。【港街】で船の出入りや人の出入りが多い【堺】で【長崎】から【大坂】へ戻ったという人物から【九州】の話を聞いて、【九州】へ帰ろうかなと思った。
【宮本武蔵】は【薩摩】の【島津義久・義弘】兄弟と縁がある。祖父と孫ほどの年の差があったが【剣】を通じての【友】だった。
【堺】にいた【宮本武蔵】を【堺】に【将軍】謁見の際の土産を買いに来ていた【北条氏信】が見かけ、『客人』としてもてなし【将軍】謁見まで【北条家】に滞在する。
棗「【裏高野】の匡君は【二天一流】の【剣術】も使うのは、こういう事情があったのか」
棗が言う人物は【伊勢匡】のことだ。【伊勢家】は【北条家】の【分家】なので、【北条家】に伝わる【文化】【武芸】など同じものが【伊勢家】にも伝わっている。
【宮本武蔵】は長期滞在の礼に【北条家】で【二天一流】の【剣術稽古】をした。これに対し【北条氏信】は【宮本武蔵】へ【指南役】の報酬を渡していた。老齢の【宮本武蔵】は金の使い途はないと固辞したが、『衣食住』の代金を差し引きした金子を報酬にと言われ『ちょっと多めのお小遣い』程度の金子になると、根負けして受け取った。
そして【北条氏信】が【将軍】と謁見した帰りに【辻斬り】をする若者たちと遭遇する。その若者たちが『【徳川光圀】と悪童たち』だった。
【辻斬り】は失敗した。間一髪で【宮本武蔵】は【光圀】の【刀剣】を自身の【鞘】に入ったままの【刀剣】で叩き折った。老齢となったが、生涯を【剣術】に捧げた【剣士】の腕は弱いものイジメをする未熟な若者とは【格】が違う。
【宮本武蔵】は、被害者になりかけていた【市井】の者を逃がすと『誰でも良いなら某を斬れ』と言って、【刀剣】から手を離し両腕を広げて『武器を持っていないポーズ』をして立ち塞がった。
【光圀】の悪友2人は、【鬼】と遭遇したような恐怖を体感して這々の体で逃げ出した。その場に残った【光圀】は折れた【刀剣】を構えていたが、脚はガクガク震えとても動けそうになかったが、まっすぐに【宮本武蔵】を見据えて逃げなかった。
強者を前に怯むことのなかった【光圀】を見て、【宮本武蔵】はこの若者は今この瞬間に『生まれ変わった』と悟った。
しかし気力だけで【宮本武蔵】と対峙していた【光圀】は緊張の糸が解けて気絶した。
【北条氏信】は、その一部始終を劇を見るような気分で見物していたと言うのだから、結構いい性格をした御仁だ。
【光圀】は【北条氏信】の【江戸藩邸】で目を覚ます。昨夜の一部始終を【北条氏信】から聞いていた【五代目小太郎紅蓮】【五代目小太郎疾風】は、気絶した【光圀】を『【北条氏信】の【藩邸】』へ運び込んだいきさつを話すと、気絶しただけで怪我はないから帰れと追い出しにかかった。
【光圀】の去り際に【紅蓮】が、「【辻斬り】したらまた『尻に落書き』するぞ」と言った。そこで、以前の【辻斬り】で気絶している間に尻に落書きしたのはこの【忍】の仕業だったことを【光圀】は知る。
昨晩、【宮本武蔵】に自分が『弱いものイジメ』をしていると指摘されて、すっかり毒気を抜かれていた【光圀】は何も言い返さず帰って行った。
そし後日、【光圀】は【宮本武蔵】に弟子入りを申したてるが断られる。【将軍】謁見が済んだので【宮本武蔵】は【九州】へ帰ろうと考えていたのだ。
【宮本武蔵】は【北条家】で【剣術稽古】をしているが、【稽古】と【指南】は似ているようで違う。【宮本武蔵】は【北条家】では【二天一流】を教授していない。【宮本武蔵】は【島津義久・義弘】兄弟と交流があったので彼の【剣術】の基盤が【薩摩示現流】なのだ。【薩摩示現流】は力強い振り下ろしが基本のような【剣術】なので、既に【剣術】の基本が出来上がっている者に【指南】しても会得が難しいので──────────見様見真似で【二天一流】を模倣することは止めていない──────────【稽古】に留めていたのだ。それで【指南役】の報酬を渡されていた。【宮本武蔵】は、いたたまれないので用が済んだら長居する気はなかった。
【北条氏信】は【光圀】を聡明な若者と見抜いていたので、「当家の者もあなたの剣術を真似足りないようなので、もうしばらく滞在してほしい」と方便と自身の要望を交えながら説得した。
結果、【宮本武蔵】は滞在を延期して【北条氏信】が2年後、25才の若さでこの世を去るまで【剣術稽古】を続けた。そこには、毎日通って来る【光圀】の姿があった。
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後半部分は、登場キャラクターの『水戸國光』の先祖になる『徳川光圀』と『北条家』との関わりです。
カンの良い方はお気づきかもしれませんが、『水戸國光』は『徳川光圀』の転生者、転生戦士、人工転生戦士のいずれかです。どれかは確定してますが、そこはまだネタバラしを控えます。3つのどれでもストーリーには影響がありません。
私の作品の前世持ちは、前世の記憶はアドバンテージになりますが、能力値やチートは努力しないと身につかないので、ただ精神年齢や魂魄年齢が高いだけです。
左:ウラシマ/右:一寸法師
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