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第漆章 ニライカナイ⑥島原の乱裏話〜密約〜
【御前試合】の御触れが各地に立てられ、【長崎】でも腕自慢の者たちが【予選】に参加していた。
【甲斐姫】が【予選】に参加したいと言い出し、【五代目小太郎疾風】は【風魔】全員で参加しよう、と提案した。
難色を示したのは【庄司甚右衛門(庄司甚内)】だ。商売をしてから全然鍛錬をしていない為、一瞬で負けると自信満々だ。【甚右衛門】は【長崎】で販売されている『ガラス細工の器や変わった形の盃(ワイングラス)』に興味津々だった。
【吉原遊廓】の【取締役】の【甚右衛門】は、この『向こう側が透けて見える透明な盃(ワイングラス)』は【見世】(女郎屋のこと)の【客】が喜びそうな品だと言っている。人物や物の前に【盃(ワイングラス)】をかざすと、実際より拡大されて見えるのが実にオモシロイらしい。
【五代目小太郎紅蓮】は、【予選】は【混戦(バトルロワイヤル)形式】なので1人くらい抜けても問題ないだろう、と【甚右衛門】は頭数から外された。
【予選会場】は【丸山遊廓】だった。観客を集めて【娯楽】として楽しもうという趣向だ。
【長崎】の【予選】が【お祭り騒ぎ】で盛り上がったので、各地でも趣向を凝らして他所と張り合っていた。
遙が言っていた『時間稼ぎになった』とは、このことである。
【予選】が開催中に【清姫】が人知れず、家族に看取られて世を去った。【清姫】は【柳生武藝帖】を所持していたので、これを奪おうとする者が現れるが【御前試合】の【予選騒ぎ】で【清姫死去】の情報がかなり遅れる。その為、【清姫】の所持していた【柳生武藝帖】の行方がわからなくなっていた。
遙「墓暴きはするわ、住居を荒らすわで大迷惑だった」
【甚右衛門】が【予選】不参加だったので、【風魔】は【柳生武藝帖】は子の【貞】に渡ったことを掴んでいる。このことは【柳生宗矩】には、まだ告げていない。
【風魔】は【柳生宗矩】が【幕府】に与しているか否かを見極めてから【報告】する考えで全員一致した。
しかし、【清姫】が所持していた【柳生武藝帖】の探索は突如、打ち切られることとなった。
『それを手にすれば国家転覆が可能である』とまことしやかに囁かれる【柳生武藝帖】の内容を【土井利勝】は、【将軍家】の【スキャンダル】が書かれていると予測して【裏柳生】【伊賀藤林流】【根来衆】と【忍】を使って、秘密裏に探索していたがこれを【柳生宗矩】と親しくしている【大久保彦左衛門】に怪しまれることになる。
【大久保彦左衛門】は、相手が【将軍】でも遠慮なくもの申す人物だ。【大老】の【土井利勝】が相手なら尚更遠慮の欠片もない。「おぬしは、コソコソと何を嗅ぎ回っておるのだ?それは、上様のご指示か」と【家光】の前で聞かれた。
【家光】は、ぽけーっとした表情でそんな指示したかなと考えている。
【土井利勝】は、これに対して「【中宮・和子様】の【御子様】の件をお調べしております」と答えた。
【徳川和子】は【家光】と同母の妹である。【後水尾天皇】の元へ入内し、【皇女(後の明正天皇)】と【皇子・高仁親王】を出産しているが、皇子の【高仁親王】が3才で夭折した。
【暗殺】を疑う声があり、【忍】を使って調べさせている。【土井利勝】は、これを隠れ蓑にして誤魔化した。実は、【高仁親王】の【暗殺疑惑】の調査で【清姫】の【柳生武藝帖】の探索は遅々として進まない。
【高仁親王】が亡くなった時、【和子】は懐妊していたので、【和子】の身辺警護にも【忍】を派遣していて、【清姫】の【柳生武藝帖】の探索は長引きそうな予感がしていた。
更に【大久保彦左衛門】に目をつけられては、次に指摘された時の言い逃れが通用すると思えないので、【清姫】の【柳生武藝帖】は諦めた。
棗「仕組まれたように、次から次へと問題が起こっているな」
【中宮・和子】が入内する前に【およつ御寮人事件】が起こっている。【後水尾天皇】のそば付き【女官】が【天皇】の子を懐妊し、【二代将軍・秀忠】は【和子】の入内を渋った。結果、【およつ御寮人】の兄弟を流刑にし【およつ御寮人】と【皇女・梅宮】を追放してこの件は終結している。
遙「【高仁親王】の件は【柳生】の仕事だ」
【柳生宗矩】の【柳生家】は元々(戦国乱世以前)は【菅原姓】の【朝廷仕え】の身分だった。【柳生姓】は【柳生藩】という地名を名乗っているだけである。つまり【柳生宗矩】は【朝廷】が【幕府】へ潜入させた【スパイ】であった。
一寸法師「なるほど………【後水尾天皇】は、【将軍家】に恨みを募らせていたようだね」
【一寸法師】は、この時点で【後水尾天皇】の事実上の【第一皇子・加茂宮】の夭折が【将軍家】による【暗殺】だと気づいた。
一寸法師「【後水尾天皇】は愛妾に当たる【およつ御寮人】と【皇女・梅宮】を追放」されただけでなく、【第一皇子・加茂宮】まで【将軍家】は排除したことが許せなかったんだね。【加茂宮】は当時、5才………一連の騒動から見て【暗殺】確定だよ」
遙「【加茂宮・暗殺】も【柳生】の仕業だ」
こればかりは【スパイ】の避けて通れない道だ。ここで断ることは【朝廷】と通じていると白状するようなもの。【柳生の庄】がかつては【菅原一族】のものだったことは、記録に残っている。【柳生】のルーツが【勤王派】だと露見するわけにはいかない【柳生宗矩】は苦渋の決断で【加茂宮・暗殺】を引き受けた。
遙「【宗矩】が先祖に遡ってまで情報を暴露したからな………【風魔】も【清姫】の【柳生武藝帖】の行方を秘匿するわけにはいかなくなった」
【柳生宗矩】は、立て続けに起こった幼子の夭折の真実を【風魔】に語った。実は【高仁親王・暗殺】の依頼人は【後水尾天皇】である。【暗殺】は【依頼人】がいて成り立つので、実際に手を下したのは【柳生】でもそれを企んだのは別人だ。
ウラシマ「自分の子を【暗殺】とか………【天皇】ヤベえ!」
遙「【将軍家】にとって、【高仁親王】は【将軍家】から【天皇】に即位する者を輩出する喜びに期待が大きかったが【後水尾天皇】は、【高仁親王】に【譲位】する予定日を告げて、直前で【高仁親王】を【暗殺】させた」
【天皇】怒らせたらコワいよ、と遙は怖がっているようには見えない表情で言った。
確かに、【譲位】が確定して日を待つばかりにこぎ着けた矢先の【暗殺】だ。有頂天から一気に落とされている。【後水尾天皇】が【将軍家】に対して如何ほどの憎悪と憤怒を抱いているかが伺い知れる。
遙「まあこの辺は、【風魔】と【柳生宗矩】が互いに信頼を得た話だ」
【柳生宗矩】は【風魔】から【清姫】の【柳生武藝帖】の情報を得たが、【将軍家】と【朝廷】がゴタつきそうな状況から──────────【紫衣事件】【天皇退位】【新天皇即位】など────────────【土井利勝】の関心が薄れているので放置した。【清姫】と【秀頼】の子が所持しているなら、【幕府】に影響を起こすことになりそうだが、【柳生宗矩】は【勤王派のスパイ】で元より【幕府】に忠誠を誓っていない。
【幕府】と【朝廷】のマウント対決が収束した頃、【長崎】で新たに【島原藩主】となった【松倉重政】が【フィリピン侵略計画】を申し出て来た。【ソルン】は【キリスト教】の拠点だったので、【将軍】への【キリシタン取り締まり】のアピールだと見え透いたセコい考えを看破していた【土井利勝】は【幕府】からの兵の派遣は曖昧にした。これを【家光】に「兵の派遣は確約できぬ」と告げさせたが、ここで『バカ殿暴走劇』が始まった。【家光】は、「やりたかったら勝手にやれば」と言ってしまった。
これを【将軍】の許可を得たと曲解した【松倉重政】は【マニラ】へ先遣隊を送るが、同時に【鉄砲】【武器】【弾薬】などの【遠征準備】も進めていた。このための費用を捻出する為、領民の生活が成り立たなくなるほどの【年貢】の引き上げを敢行した。
だが、【松倉重政】は温泉で保養中に突然死する。それによって【フィリピン進軍】は頓挫したが、家督を継いだ嫡男の【松倉勝家】はこの【フィリピン侵略計画】も引き継いでいた。
遙「【松倉重政】の死後に【秀頼】は自刃している」
燎「いきなり話が飛んだ!」
ウラシマ「【清姫】の死後、【秀頼】どうなったとは思っていたが急に出てきたな」
燎と【ウラシマ】は話の繋がりが見えないが、【一寸法師】はそうでもなかった。
一寸法師「話の流れから【松倉重政】を殺害もしくは暗殺したのは【秀頼】か【秀頼】に付いていた【真田の忍】」
だが、殺害だったとしても突発的ではなく計画してこのタイミングで行っている。もっとも暗殺は基本、計画的なので言うまでもない、と【一寸法師】は【秀頼】の自刃まで推測を語る。
一寸法師「【松倉重政】は、殺される直前に【将軍】の許可を得ている、とでも言ったんじゃないかな」
そして【秀頼】は【直訴】しに【江戸】へ。
遙「一寸伯父さん………当事者でもないのに見ていたように理解してるな」
その推理正解、と遙は【一寸法師】の『明晰な頭脳』に感心する。【陵家】の者は【頭脳】はかなり優秀だ。しかし『脳筋寄り』なので『頭を使う』ということが好きではない。宝の持ち腐れである。先程の燎や【ウラシマ】のように話の急展開に驚いて、その過程で何があったのかなど考えない。しかし、【一寸法師】は『脳筋寄り』の【陵家長男】だが、『超速回転の頭脳派』のようだ。
【江戸時代】の【直訴】は、9割方【死罪】となる。
【秀頼】は【霧隠才蔵】【猿飛佐助】の補助を受け、【家光】の寝所へ潜入した。
潜入して驚いたのは、【同衾者】だ。場所が寝所なので【同衾】自体には驚かない。同衾相手を見て驚いた。
相手は【柳生宗矩】の庶子【柳生友矩】であった。着衣が若干着崩れていた。
棗「これは『致している最中』か『致した後』だろうな」
所で子どもにこんな話聞かせていいのか、と棗はこんな話の解説をした後で聞いた。
燎「棗………『致した』とか言ってからそういうこと聞くのか!」
棗「そんなことより、【家光】は腰を抜かしたのではないか?」
【豊臣秀頼】は【大坂夏の陣】で自害したはずの人物だ。
棗の指摘どおり、【家光】は腰を抜かして人を呼ぼうとしたのを【柳生友矩】が止めた。彼は父【柳生宗矩】から【秀頼】は自害したことにして【九州】へ逃がしたことを聞いているので冷静なものだ。
【秀頼】は、おもむろに【直訴状】を取り出した。【柳生友矩】が受け取って【家光】に渡す。【柳生友矩】が、すぐに中を改めるよう促した。呑気にも【家光】は、明朝でいいと思っていた。深夜に寝所へ忍び込んでくるほど急ぎの用件だと理解していない。
面倒そうな表情を隠そうともしない【家光】に【柳生友矩】が耳元で何事か囁いた。
途端に【家光】は真っ青になって、慌てて【直訴状】を開いた。【柳生友矩】は「【天樹院様(千姫)】からおしかりを受けますよ」と囁いたのだった。【家光】は姉の【千姫】には頭が上がらない。
【直訴状】を読んだ【家光】は、ワナワナと震え出して「なぜ、このような事態になっている」と聞き「余はこのようなことは命じておらぬ」と言ったが、【家光】が【松倉政重】に「勝手にしろ」と言ったからこうなったのだ。
【柳生友矩】は手元に【刀】があったら【家光】を斬っているかもしれない衝動を必死で抑え込んで、【家光】に父【柳生宗矩】なら何とかしてくれるかもしれないと言いくるめて【直訴状】の内容を聞き出す。
【島原藩藩主・松倉政重】が領民の生活がままならないほどの過剰な年貢の取り立てを行い、それに倣って【天草領領主・寺沢堅高】も同様の取り立てを行っている。
【天草領】には元の領主だった【小西行長】の家臣たちが【素浪人】となり残留していて、彼らがこの弾圧に武力行使で対抗しようと領民たちに呼びかけているという【藩主・領主】に不満を持つ領民たちの【大規模一揆】が示唆される内容だった。
遙「【秀頼】は、彼の命令で【真田の忍】が【松倉重政】を暗殺したと話し、【直訴】した以上は法に則って【死罪】を受けると言った」
しかし【家光】は慌ててやめてくれと嘆願する。そして、生きているなら【千姫】に会ってほしいと頼み、ここで【秀頼】に死なれては【千姫】の怒りが怖い、とわが身のことしか言わない。
何もわかっていない【家光】に【柳生宗矩】は、こいつは『バカ殿』だから気絶させて自分が対応しようかと考えが頭をよぎったほどだ。しかし、【死】を覚悟してここにいる【秀頼】に敬意を表して【家光】に助言した。
遙「【秀頼】は、【島原の抗争】を全て自分の責にして誰一人、罰することなく領民にはある程度の【打ちこわし】をさせて手打で双方退かせるという計画を持ち掛けた」
しかし、これには【生贄】となる人物が必要だ。先導者として説得力のある人物が適任である。【小西行長】の元家臣には動機はあるが、【素浪人身分】では先導者として無理がある。だが、【大坂夏の陣】で自害したはずの【豊臣秀頼】が【長崎】に逃れていて【島原藩主】の横暴に反旗を翻したという『シナリオ』のほうが、【幕府】は『【豊臣】の最後の生き残り』を断罪し『島原の抗争を収めた』という都合のいい結果が得られる。
遙「このことは、【長崎】に留めている【高甚(高坂甚内)】【鳶甚(鳶島甚内)】から聞いていて、落としどころとしては妥当だと思った」
この時の【五代目小太郎紅蓮・疾風】の判断を間違っていると否定する者はなかった。【忍】に忠義・忠誠心はない。合理的に事を済ませるのが理想なのだ。
左:遙/右:影千代
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