偽りの黙示録

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その様子をじっと見る青年。見てから、考えてるのか空をふと見て 「何をしている。ロープで遊ぶような歳でもないだろう」 「結び目堅くて取れなの。取れたら助けてなんて頼まないよ」 ついに、天使は泣き出した。 「それならそうと早く言え」 ロープを解く青年。天使はロープから解放された。 暫く、沈黙していたが、天使はにこりと笑うと改めて礼を言った。 「レィス、こんなところに居たのね。伯爵様が探してましたよ」 唐突に、声を掛けてきた家政婦が、青年を見止めて硬直する。 「し、死神っ」 絞り出した声で呟いて、そのまま逃げ出した。 「む。人の顔を見て逃げ出すとは、失礼な輩が居たものだ」 家政婦が逃げた方向を一瞥し、すぐに天使に向き直る。 「伯爵とやらが探しているらしいぞ」 「知らないよ、気にしないで。水と交換にあたしを生贄として差し出したんだから。だけど、あそこでいくら祈っても雨なんか降らない」 「そうだな。雨など降らんだろう。祈りは所詮気休めにすぎない」 無表情のまま頷く青年。 「みんなの気持ちも分からない訳じゃないけど、無駄死にはしたくないよ」 疲れたように、俯いた。
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