雨乞い

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 あれから50年後。  一人の男が断崖に立っていた。  その男は老人といえるほどに年をとっていた。  長い歳月によってとうに壮齢を過ぎ。皺が目立ち。髪が全て真っ白くなったが、歪みがあるが、立派な体躯の大男であった。    その顔はかなりの憂いが滲んでいたが、同時に若々しく精悍な顔でもあった。  そこは元は野原が広がっていたが、断崖の周りには草木一本もない。ただ強い冷たい風の音以外には無音であった。   「もう50年か……」  男はそう言うと、断崖から飛び降りようとした。  その男の名はアレクサンダー。  紀元前600年に国を再興するべく西へと戦いを挑んだ。  だが、結果は負けであった。  捕虜となったアレクサンダーは、一年中日が差さない地下牢で拷問を受け続け、体中の血液が汗と共に流れ落ちる日々を送っていた。  体が歪み。長い辛苦は言葉を失わせた。  何年かした後に、その西の国も戦争で滅びた。アレクサンダーは東の国の方に渡り、幾ばくか流浪した。  路銀が底を尽きれば、小さな時に賢者から教わった雨乞いの儀式を幾つかある村で行い。雨を降らせ、乏しい食事にありついていた。  ある日。  東の国王がアレクサンダーの雨乞いの噂を聞き、30人いる姫の一人との結婚を許した。その国は雨が降らない国であった。  干ばつ被害の多い東の国で、アレクサンダーは姫と結婚すると、その国で雨乞いをした。  けれども、一向に雨が降らず。  姫と共に国を追い出されてしまった。  姫が国を追い出された恥に耐え切れずに自害してしまい。悲しみのアレクサンダーは自分の国に帰ると、そこは新しい王が君臨している大国になっていた。  言葉を失ったアレクサンダーは王座をかけて、新しい王と賭け事で勝負をした。  それは、雨の降らない東の国に雨を降らせることだった。  新しい王は国中の雨乞いの儀式のできるシャーマンを呼び集めた。  アレクサンダーは雨乞いの儀式を真剣にした。  国中のシャーマンが雨乞いの儀式をしても東の国に雨は降らなかった。    東の国に雨が降った。  アレクサンダーの儀式は女人禁制だったのだ。  すぐさま新国王を迎えるお祭りが国中に広がった。  崖から一人の男が飛び降りようとしていた。  その男の名はアレクサンダー。  アレクサンダーは自害してしまった姫のことを心底愛していたのだ。
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