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K市内総合病院の中庭で、少女が芝生にペタンと座る。
快晴のそよ風は、大きな一本の楠の葉をくすぐった。
彼女は近くの大木に目もくれず、なにやらぶつくさつぶやく。
1
「あなたの話、本当なの?」
「僕が嘘ついたことなんかあるかい、お嬢ちゃん」
「今会ったばかり人が何言ってるの?」
「まあいいじゃないか。僕には時間なんて関係ないんだし。聖者がやってくるんだし」
「とりあえず今日は帰って」
「また来るよ」
「来るな」
翌日 病室内。広々とした個室に少女は横臥している。
白ペンキの収納棚の上には、カード式のテレビが設置されているが使用された形跡はない。
反対側には、小さな冷蔵庫がついている。
「やあ。調子はどうだい?」
「最悪。あんたが来るから」
「お嬢ちゃん、それは残念だ。でも話しは聞いてくれる?」
「嫌に決まってるでしょ、私忙しいの。さっさと出てってよ、おじさん」
「わかった。それじゃあまた明日」
「いや来なくていいから」
「グッバイ」
「というか、あんた誰よ」
その日から、少女の元へ謎の男が見舞うようになった。
初めは警戒しかしていなかった少女だったが、暇なのかわからないが何度も足しげく通う男に徐々に信頼を寄せていく。
なにより、彼女が帰ってと言えば必ず帰る所が信用のきっかけになった。
無理強いはしない。他の大人達とは違うかもしれない、と彼女は男への評価を変える。
10日後 中庭にて
「やあ。お嬢ちゃん、元気にしてたかい?」
「あの、おじさんってどうやって病室に入ってるの?」
「普通にドアをすり抜けてさ」
「普通はドアをすり抜けないって。それに、家族でもない人が簡単に面会とかできないでしょう?」
「僕は有名だから、顔パスだよ」
「答えになってない」コホンコホンと少女は咳き込む。
「大丈夫かい、お嬢ちゃん?」
「大丈夫、冷蔵庫にミネラルウォーター入ってるから」
冷蔵庫からペットボトルを取り出し、少女はミネラルウォーターを飲み干す。
「具合悪いのかい?」
「……別に悪くない。悪くなってくたばった方が病院の為になるんじゃないの?」
「嬢ちゃん、そのジョークは笑えないよ」
「おじさんには笑ってほしかった」
「笑うもんか。君が苦しんでいるというのに、そんな事絶対にしない。僕、今日は帰るよ。君は早く寝て、体調を万全にして次の日の僕を追い出すんだ」
「追い出していいんだ」
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