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「……私、小さい頃から体が弱くて、この病院の小児棟にずっといるの。三階の一番奥、窓際の個室。もう、住んじゃってるっていってもいいくらい。友達ができても、相手はすぐに退院しちゃって。つまらなくて。
友達も、最初は連絡寄越してくれていたりしたんだけど、学校の方が忙しくなったのかどんどん連絡がつながりづらくなっちゃって。
仕方ないよって、割り切っているのに、仕方なくないモヤモヤが心の奥で消えないの。そんな時に、友達にすすめられた本が面白くて。
最初はただ話しを合わせるだけだったのに、どんどん心の中のモヤモヤを本の登場人物達がやっつけてくれて」
「そこからお嬢ちゃんは本好きに?」
「うん。あの時の自分を助けてくれたのは本だった。いえ、今も……ううん。もう助けてくれないの」
「そんなことないさ」
「本の事を話せる人に会ったのは、おじさんがはじめて。看護師や医者はちゃんと話しを聞いてくれなくて。忙しいのはわかってたけど。わかってたけど……わかってほしくなかった」
「どうして?」
「頭がいい子だと思われてたから」
「実際、お嬢ちゃんは知的な香りがするよ」
「そんな香りうっとおしい。頭がいいから、都合がわかるから我慢だって、理解だってできるんだろうって。理解だけじゃ寂しさは埋まらなかった」
「僕が埋めるさ、特大の杭で寂しさなんて、辛さなんて必ず」
「できるわけないじゃ」
「できる」
「嘘言わないで」
「できる。じゃなきゃ、みんなやってこない」
「来るわけないじゃない……来たってもう遅いのよ」
「まだまだ」
「遅かったの!なら、地震だって止めたら良かったじゃない。熊本城だって、道路だって、友達の家だって地震がなかったらなんともなかったじゃないの。私だって……」
「……怖いんだね」
「そうよ。短い余震で何度も目を覚まして。何度も震えが止まらなくて……その頃から、自分じゃ言わない物騒な事言ったり」
「僕にいったやつ?」
「うん」
「冗談だろ、挨拶の一種かと思ったくらい平和な言葉じゃないか」
「おじさんもいろいろあったんだ」
「僕は地震はなかったけど、とても貧しい場所で育ったから。でも、僕は音楽と出会えて変われた、人生って白と黒のモノトーンで区分けされた、大変つまらない世界だと思っていたんだ」
「どう変わったの?」
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