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「物語を書いて、作家になりたかったの。私」
「大丈夫、なれるさ。声で文章を作ったらいい」
「簡単に言わないで、そんな事できるわけないじゃない。目が見えないのよ。真っ暗なの。仮に、できたとしても生活できるくらい稼げない」
「そうなの?」
「プロの作家なら、何百冊いや何千冊は軽く読みこなしていて、日夜血のにじむような努力を重ねてる。その上で執筆しているの、日夜修正・改稿しながらね。本気でやってる人達に、私は申し訳なく思う」
「全くの間違いだよ、お嬢ちゃん。プロだった僕が保証する」
「根拠を教えてよ」
「みんなは僕が才能があるって言うんだが、全然的外れだ。僕がやったのは、目の前のお客さんを演奏で楽しませただけ」
「それだけ?」
「それの繰り返しで、50年以上やってきた。僕よりうまい人なんて、たくさんいたさ。その僕が言うんだ、君は必ずできるって」
「……本当?」
「うん」
「本当……だったら、いいな。なんだか、今ならおじさんが幽霊でも信じられるかもしれない」
「前に言っただろう」
「幽霊と話してるなんて色々とありえないじゃない。もう今は構わないけど。そうだ、おじさんこの話しで物語を書いていい?」
「いいよ。君のとびきりの笑顔は可愛い」
「すぐにはできないけど、やるって決めたの。そうとなれば……まだ聖者はやってくるの?」
「やってくるけど、それがどうしたの」
「ショパンもやってくるなら、バッハも来るんでしょ」
「バッハだけで、大所帯だ。確認するよ、ちょっと長くなるがお嬢ちゃん、付き合ってくれ。オッフェンバック、マーラー、パガニーニ、ビゼー、メンデルスゾーン、名前は知ってるハイドン、シューマン、ワーグナー、リスト、サティ、ファリャ、ホルスト、ロッシーニ、スクリャービン、シャブリエ、ラヴェル、クープラン、サン=サーンス、ハチャトゥリアン」
「多いよ。覚えきれないよ、おじさん。お礼言うのに大変だ」
「お互い様だ。僕等の代わりに今生きてる人達に感謝しよう。その方がいい」
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